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『有効活用』

「畜生……何で、こんな目に。神も仏もありゃしねえ」

 拘置所の中で、男は呟く。

「詐欺だ詐欺だって言うけど、あんな脳が半分腐ったような年寄りが金持ってたって仕方ないじゃん。経済回してやったんだから、逆に感謝して欲しいぜ」

「なるほど、ごもっともな事です」

「え?」

「貴方の使命感による行動、賞賛に値します」

 硫黄の煙と共に現れたのは、ダークグレーのスーツ姿の男だった。一見人間と変わらないが、その肌は青みがかり、耳は尖り、頭からは小さい角が生え、尻尾もある。

「あ……悪魔」

「如何にも。ナベルス侯爵率いる十九の軍団のうち、第十四軍団に属する悪魔、ヘッテルギウスと申します」

「わ、わ、あ、た、助けて、人違い、人違いだから!」

「貴方の心からの叫びと、神への呪詛によって、悪魔との契約意向と判断されましたので、ご契約の手続きのお手伝いに参りました」

 ヘッテルギウス氏は恭しくお辞儀をする。

「願い……? 食い殺しに来たんじゃなくて?」

「はい」

「本当に?」

「はい。神が悪魔を滅ぼせないのは、偽りを持たず、契約という正しさを遵守し、滅ぼすべき罪を見出せないからでございます。悪魔の言葉はいつも誠実であり、破滅をするのはそれに頼りすぎる人の心の弱さ故なのです。さあ、願いをどうぞ。どんな願いも、それに見合った対価で叶えて差し上げましょう」

「だ、った、ら」

 動揺を抑えきれないままに、男は口を開く。

「裁判に勝たせてくれ。無罪にしてくれ」

「ふむ、それであれば方法としては、証拠品の隠滅などの破壊工作なら死後の魂全て、裁判官の言葉を悪魔の言葉と入れ替えてしまう方法ならば死後の魂の半分で承りますが」

「魂を取られるのか?」

「死後に魂の所属が神ではなく我ら悪魔に移るということです。我らの魂となれば、天国に至る事や、生まれ変わる事はなく、いわゆる地獄行きとなります。ただし、これは全ての魂が我らの物になって初めて意味を持ちますので、残りの半分が神のもののままであれば、多少の不利はあっても天界の門をくぐれる可能性は残ります」

「よく分からないけど、だったら裁判官の言葉を入れ替えてくれ! 証拠があろうとなかろうと、裁判官が言えば絶対なんだからな!」


「ブラディーマリー!」

 地獄の四丁目のバーで、ヘッテルギウス氏は四杯目のカクテルを注文する。

「ご機嫌ですね。仕事の調子、よろしいんですか?」

 絞り器で血を絞りながら、バーテンダーのニスシチが尋ねる。

「転生者狙いで幾らかね。前世のツケと合わせて丸ごと契約完了さ」

「仕込みが実を結んだって感じですね」

「そうとも」

 テーブルに置かれたカクテルをヘッテルギウス氏は喉を鳴らして飲む。

「でもその場合、契約は錯誤にならないんですか? 実際にはもう半分貰ってる訳じゃないですか」

「照会制度は充分用意されてるよ。契約済みの魂持ちは、半分だろうが何だろうが、肉体に刻印が現れるし、神に一度でも祈れば罪の重みの自覚という形で魂状態が分かるんだ」

「なあるほど」

「自分の魂がどっちに寄ってるかも分からないような人間が魂なんか持ってても仕方が無い。使ってやるのが、生きた魂の使い方ってもんだろう?」

【完】


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