表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/24

『心配王様』

 むかし、あるところに王様がいました。

 王様は、家来たちがきちんと仕事をしているか、いつも気にしていました。

 それで、夕方になると、いつも家来達を呼び付けました。

「これ将軍、今日は何をしておった?」

 王様は尋ねます。

「はっ。朝は国境の警備隊の視察をし、昼は兵士の訓練、それが終わってから新しい武器の割り当てを決めました」

 将軍は答えます。

「それをやった証拠は?」

「一緒にいた私が確認しています」

 副将軍が言います。

「ふむ、ご苦労だった。では、厨房長、お前は何をしておった――」


 ある日、王様はいつものように部屋で執務をしていました。書類に目を通し、良い物には許可のサインを、悪いものには疑問点を書き足して差し戻し。

 書類は少なく、午前中に終わってしまうぐらいの量です。

 ところが。

「ああ……将軍は今頃何をやっているのだろう? 大臣は? メイド長は? あああ、ひょっとしてこっそりサボっているのではあるまいな?」

 王様の手は度々止まります。気が散って仕方がないのです。

「まさか……いや、そうだ、そうに違いない。大体、今日の将軍は私の前から去る時に左足から踏み出していた。という事は、右足を休ませるつもりだ。右足だけで休める訳がないから、体全部を休ませるのだ! ああ、確かめられたら! 嘘を言わせないのに! 誰でも良い、家来が何をやっているか教えてくれ! 誰でも、何者でも良い!」

 その時です。

 小さな爆発音がしたかと思うと、辺りが一気に硫黄の煙に包まれました。

「うわっ、なっ!?」

「お困りのようでございますね」

 晴れた煙の向こうには、男が立っていました。美しい身なりをしていますが、尻尾が生え、唇から牙がはみ出ています。

「あ、悪魔!?」

「初めまして、私、悪魔のヘッテルギウスと申します」

 ヘッテルギウス氏は慇懃にお辞儀をしました。

「今日は、選りすぐりの商品をお持ちしました。家来が何をしているか分かるもの、でございます」

「なんだと!?」

 王様は悪魔崇拝者ではありませんでしたが、ヘッテルギウス氏の言葉はあまりに魅力的でした。

「この箱を家来達に持たせなさい。離れていても話が出来る道具です」

 ヘッテルギウス氏は、王様につるつるした平べったい箱をいくつも渡します。

「これは……」

 箱には継ぎ目があり、王様がいじっていると、パカリと開きました。

「うわっ、壊した!」

「ご安心下さい。それは元々そういうものです。さて、使い方は直接お教えしましょう」

 ヘッテルギウス氏は、王様の額に尖った爪の生えた指をそっと当てます。

「はい、これであなたの頭にそれの使い方が伝わりました」


 王様はヘッテルギウス氏から貰った道具を家来達に配りました。

「ああ、もしもし? 将軍、今どこで何をしている? 模擬戦中? 証拠は? ふむ、確かに戦う音がする。よし、分かった」

 執務室で、遠く離れた家来と話をしていた王様は、話を終えてから眉を寄せます。

「……けれど、嘘を言われていれば、元も子もないな」

 その時です。

 また硫黄の煙と共に、ヘッテルギウス氏が現れました。

「お困りのようですね」

「悪魔か……また、頼むか」

 王様は迷いつつもヘッテルギウス氏に話をしました。

「なるほど、話が出来ただけでは足りない」

「うむ」

「それなら、姿も見える道具にしよう

 王様はまた、ヘッテルギウス氏から道具を受け取りました。


 数日後。

 王様はけれど、また憂鬱そうに眉を寄せていました。

 話が伝わる道具には、家来達の姿が映っています。

「どうなさいました、王様?」

 ヘッテルギウス氏がまた現れて尋ねます。

「姿は見えるが、後ろを石壁にでもされたら、どこだかさっぱり分からない。それを良い事にサボるなんて!」

「いいでしょう」

 ヘッテルギウス氏はにまぁっと笑います。

「どこに誰がいるかが分かるヴァージョンです」


 それからというもの、王様は絶え間なく家来達の様子を見続けました。もう家来の監視をする以外、何もしなくなっていました。

 けれどこの道具のおかげで、クーデターの時には前もって逃げておくことが出来、王様は命は取り留め、貧しいながらも人としてその後の人生を過ごす事が出来ました。

 めでたし、めでたし。

【完】


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ