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勇者召喚(3)

「北から西に流れたのですか?」

「そうじゃ、より正確にいうなら北北西にその流星群は落ちた。じゃがこれは単純に流れ星が落下したという問題ではないのじゃ」

 マルトは少し考えた。そして、自分の答えを口にした。

「つまり、その流星群の落ちた場所が問題な訳ですね。北北西……もしかしたらお師匠様はアレを使って、落下地点を確認したのですか?」

 アストラスは無言で頷いた。

「千里眼……高位の魔導士でないと使いこなせない、身体強化魔法の一つ。そしてまだ私には使えない魔法……」

「うむ、この魔法はある程度修練を重ねた者にしか伝授できぬ。じゃがおぬしに教えぬのは、決して修練が足らぬからではないぞ。まだ成長期のおぬしが身体強化はリスクが大きすぎるんじゃ」

「リスクとはなんですか?お師匠様の弟子は、私以外はなんらかの身体強化魔法を使えますよね」

 マルトは、自分だけが身体強化魔法を教えて貰えぬ不満を口にした。

「じゃから言っておるだろう。まだ身体的に成長の余地のあるおぬしに、強化魔法はその成長を阻害するおそれがあるのじゃ。まだ成長するはずのおぬしの肉体の成長を止めてしまうことになるやも知れん」

「わかりました、そのことはまぁいいです。話を戻しましょう、お師匠様は落下地点を確認したのですね?」

「そうじゃ、じゃが確認しきれんかったというのが正しい。何故ならその赤き流星は、ある山の向こう側に落ちた。ここからでは落下地点の確認のしようがない」

 マルトはもう確定した事態を、わざわざ口にすることの苦痛と絶望を感じていた。

「この地より北北西……すなわち死の山(デスマウンテン)ですね」

「うむ、しかし死の山(デスマウンテン)にはおそらく落ちとらん。あそこに落ちれば暗黒竜が……いや、死の山(デスマウンテン)に落ちとらんのは、儂の千里眼でほぼわかっていることじゃ」 

「ほぼということはその可能性もあると……」

「まあ可能性はなくはないが、それは大海で小指の先ほどの宝石を探せ、といっとるに等しい所業じゃよ。限りなく不可能に近い、そういうことじゃ」

 アストラスも絶対の自信ががある訳ではないが、自分の魔導と知識を踏まえて死の山(デスマウンテン)には落ちていないと結論付けた。

 マルトはいよいよ嫌な気分が増していく自分を感じながら、もう最悪の結論へ誘導されるしかなかった。

死の山(デスマウンテン)には落ちていないなら、その向こう側……それは魔王城ということになりますよね」

「そうじゃ、魔王城に直撃した訳ではないが、その周辺に落ちたのはまず間違いない。それが何を意味をするのかは……」

「ちょっと待って下さい。魔王城といってもあの死の山(デスマウンテン)の向こう側は、とても広大な不毛地帯ですよ。魔王城付近に流星群が落ちたかは、はっきりわかることではないのではないですか?」

 アストラスはマルトがそう返すことをわかっていたようで、うんうんと頷いている。

「マルトよ、儂は死の山(デスマウンテン)以北の不毛地帯のおおよその地図地形を把握しておる。別段自慢ではないが、不毛地帯の地理を把握しておるのは儂の他、二、三人おるだろうか……」

「なっ……」

 マルトは驚きのあまり、言葉に詰まった。

「何故不毛地帯のことを知っておるのか、と言いたいんじゃろう。それこそ簡単なことじゃ、儂は死の山(デスマウンテン)を越えて、不毛地帯に入ったことがある。そういうことじゃ」

「お師匠様が大陸中を冒険したことは知っていましたが、不毛地帯に足を踏み入れていたとは知りませんでした。……何ゆえそんな所に行ったのですか?」

「別に魔王退治でも、世界の一大事でもないぞい。単に興味本位じゃ、未知の場所に対してどうなっとるか知りたい、ただそれだけで不毛地帯に入った。まあ同行させた二人には、この上なく迷惑なことじゃったろう」

 マルト先ほどと別の種類は驚きを感じた。

「同行者がいたのですか!」

 アストラスは何を当たり前のことを、と驚くマルトを一瞥した。

「いくら儂とて、単独で死の山(デスマウンテン)以北へ向かおうとは思わんよ。それにな、そんな度胸も無謀さも、今も昔も持ち合わせてはおらん」

「では先ほどの話で、不毛地帯の地形に通じている者が二人ほどいるとおっしゃったのは、その二人の方ですか?」

 いや違う、とアストラスはかぶりを振った。

「確かに儂に同行した二人は超優秀な冒険者であり、儂の古い古い友人じゃが、あいにくたった一度踏み込んだ場所の地形を、あの禍々しい一帯を把握するほど賢くはない。残念なことじゃがな……」

「お師匠様、ご自分の友人を悪く言うなんて、あまり誉められたことではないでしょう」

「何を言う。このくらい悪口でもなんでもないぞい。事実を述べただけじゃ。二人はな、一人は魔法を使えぬ戦士で、剣の腕ならかの伝説の剣聖に匹敵するとまで噂された、凄まじい剣技の使い手じゃった。もう一人は魔法戦士で、魔法も剣の腕前も超一流じゃった。ただ性格に難があってな、思い込んだら一直線の猪突猛進な奴で、まだもう一人の戦士の方が思慮深く思えるくらい直情的な奴じゃった……」

 アストラスは感慨深げに目をつむった。おそらく三人で冒険した当時を、思い出しているのだろう。

「思い出にふけっているところ、大変申し訳ありませんが、ではあとの二人とは一体……」

「うむ、まあそれは今は良いじゃろ。今回の本筋から外れておる。星の流れた地点じゃが、儂の学識と経験からまず魔王城付近で間違いないじゃろう」

 マルトはこれまでのアストラスとの会話から導き出される結論を、口にしない訳にはいかなくなった。

「つまりお師匠様の目下の心配事は、魔王復活ということですか?」

 アストラスは目を閉じまま、ゆっくり深く頷いた。

「……そうじゃな、心配事の一つは間違いなくそれじゃ」

 マルトは自分の耳を疑った。心配事の一つ?

「ちょ、ちょっと待って下さい。お師匠様の心配事は、それだけではないのですか?」

「まあ確かに世界の一大事だわな、魔王の復活というのは。……しかしな、マルトよ。今回起ころうとしとる災厄とは、それだけに収まらぬ。儂はそう思うんじゃ」

「……魔王復活だけでも、にわかに信じがたいのに、その上それ以上の惨事が起こるというのですか?」

 いきなり全てを飲む込めというのは無理じゃろうな、アストラスは仕方ないことじゃと、マルトに問いかけるというより、自分にいいきかせるように呟いた。

「まだ聞きたいこともあるじゃろう。だが話はおいおいしていくことにして、おぬしに協力してもらう以上、早急にやって貰うことがある。それが、それこそが今回の事態を解決する一条の光となるじゃろう」

「何ですそれは?」

 マルトは首を傾げた。

「うむ、勇者召喚じゃ!」

「勇者召喚!?」

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