4月のある晴れた朝に100パーセントのスキルに出会うことについて
四月のよく晴れた朝、僕は王宮を追放された。それは、マクドナルドの店員がハンバーガーを差し出す時の笑顔みたいに、まったく完璧な追放だった。
僕が、いつもにこやかな笑顔を向けてくれる宮廷魔術長を見ると、彼はまるで道端で座り込む薄よごれた猫を見たかのように、いたたまれなさそうにうつむいていた。
「悪いね。僕たちも手は尽くしたんだけど」
僕の追放を告げた男が、すまないとは思ってないだろう口調で告げた。
「とにかく、今日限りで君の宮廷魔術師の職を解く。君に発現したスキルは、王宮への立ち入りを許可されていない。最年少宮廷魔術師だろうと、これは規則だ」
僕はちょうど、数日前に十五歳の誕生日に受けるスキル鑑定を受験したところだった。
この試験では、魔法とは別に個々人に与えられた特別な才能、「スキル」を鑑定する。
スキルは持つ者自体がとても珍しく、それに、とにかく種類が多い。上手くいけば僕は最年少、かつスキル持ちの宮廷魔術師として華々しい道を歩めたのだけど、僕に発現したスキルは【吸引力】だった。
「あなたのおっしゃることはわかります。でも、それってあんまりにもひどすぎやしませんか。僕はただ、真面目に自分の仕事をしていただけなんです」
「無理だ。魅了系統のスキルを持つ者は、リスクが高すぎて国の中枢には置いておけない」
「でも、これまで何も問題を起こしてないじゃないですか。第一、第三皇子のスキルも魅了だったと聞いてます」
「それが、君がよからぬ連中と付き合っているんじゃないか、という密告があってね」
僕は首を横に振った。
それがでっちあげだということは明白だった。自慢じゃないけど、僕の生活なんてつつましやかなものだ。昼間は王宮で回し車を回すハムスターのように動きまわり、夜は家で一人でハムとレタスのサンドイッチを作って食べる。
時おりバーに出かけてワインとクラッカーを少しばかり食べることはあったが、そんなものだった。
「それはなにかの誤解です、僕にはそんな付き合いは無い。第一、僕の友達はネズミぐらいしかいないって、皆も知ってるじゃないですか」
ネズミは僕の唯一と言っていい友人だった。
魔法学校の同級生だったが、ネズミは真面目に授業を受ける気などははなからないようで、いつも違う女の子を横に侍らせて馬車で繁華街をうろついていた。
僕とネズミは正反対だったが、不思議と馬はあったのだ。
「どうかな。お前の魔術の腕があれば、行動履歴の隠蔽ぐらいはお手の物だろう」
男が、僕の職務経歴書をとん、とんと指で二回たたいた。
「今日付で君を解雇・追放する。再就職は自由だが、国内では難しいかもしれないな。魅了系統スキルは禁忌扱いだ」
彼の言う通り、魅了系統のスキルはこの国ではびっくりするぐらいに嫌われていた。
農場で大切な作物を食い荒らすモグラでさえ、ここまでは忌み嫌われていないかもしれない。今の僕を好いてくれるなんて奇特な人物がいるのならば、僕はよろこんでバーの代金を全て払って、おまけに最高級のワインだって好きなだけコルクを抜かせるだろう。ポン、ポン、ポン。
「とにかく規則なんだ、悪いけど」
彼はそう言って、足早に部屋を出ていった。
やれやれ、僕は追放された。
王宮を出る。扉の脇に立つ門番が、規則正しい敬礼で僕を見送った。
全く嫌になるほど規則通りの敬礼だった。
あたたかな春の風が、僕の腕を撫で、木々を揺らし、柔らかな緑の若芽を包んだ。
僕が追放されるにせよされないにせよ、春はやってくるのだ。
聖暦2167年の僕の春は、こうして始まったのだった。