波打ち際の置き時計
白砂の粒に爪を立て宿借がゆっくりと這う。
まだ若い日の光が、彼の背負う、白い巨塔のような巻貝に当たっている。
引いていく澄んだ潮が浜を撫で、気泡の影が水面に踊る。
甘く濡れた波打ち際に残された小麦色の石を、君の手が拾い上げた。
レストランのテラスのテーブルには真新しいクロスが敷かれ、磨かれた食器が饗宴を待ち受けている。
白い陶器の器には絡み合う茨がひっそりと縁取っている。
岬の方から海風がその器に、干乾びた赤黒い海草の一切れを滑り込ませた。
母親は陰りゆく太陽にまだ目を細めながら、中に入りましょう、と言った。
大人しく座っていた君は、両手で撫でていた小麦色の石から目を離し、海を一瞥するとレストランの中へと入ろうとするが、寸前で振り返って、その石を浜に向かって放り投げた。
砂埃もたてずそれは浜にある石の一つとなった。
残る僅かな跡だけがこれの陸から来たことを語る。
次の日、石はヤドカリになった。
日の光が、静止したような青空を満たしている。
小麦色の細い脚で白骨のような家を運ぶ。
白砂には彼の這う跡が婉曲しながら続いていく。
ジムノペディを奏でるような音の振れが、浜に続いていく。
寄せて返す潮がヤドカリの弾くピアノの音をそっと消しながら、続いていく。