3-26 女神様とメイドの天使
単話のサイドストーリーです。
天界の文化は地球の、主に日本の文化に似ている。わかりやすく言うなら未来の日本はこんな感じ、と言った具合に地球よりも科学的に発達している面もある。
そんな天界に1人の少女がいた。
「今日も一日頑張りますか」
名前はミクリア。
彼女は町の広場でチラシ配りに励んでいた。
日本ではチラシ配りは結構見かける。
しかし、科学的に発達しているこの天界でチラシというものに需要は無い。それなのに彼女がチラシを配り続けるのにはわけがあった。
仕事がないから。
一般的にチラシ配りは自分の働く会社などの宣伝のために行うだろう。しかし、彼女はそうでは無い。そのチラシに書かれている内容はミクリア自身のプロフィール。
そう、ミクリアは自分を雇ってくれるような人を探していたのだった。
今日でチラシ配りを初めて1週間。
体力的にもそろそろキツい。
「あなた、仕事を探してるの?」
そこに1人の人が声をかけた。ミクリアは初めて声をかけられた。なのでこのチャンスを逃すまいと返事する。
「はい、できることならなんでもやります」
できることなら、と言っても苦手なことが多くて戦力になるかはミクリア自身も自信が無い。
天界学校の最終学歴も中の下。
でもここはアピールのチャンスだった。
「そうなんだ、実は私、今年から神の間で働くんだけど、施設が広くてメイドさんみたいな人探してたんだけど……」
「メイドですか……」
ミクリアはしゅんとする。洗濯や掃除ならまだしも、料理はできない。さらには神の間での仕事は数ある職業の中でもトップクラスの職業。そんなところで自分なんかが働いてもいいのか。
そんなことを考えていた。
「あなた、名前は?」
「ミクリアです……」
「ミクリアちゃんね。よかったら来ない?ダメそうだったらすぐに辞めちゃってもいいから」
とりあえずお試しで、そんな勧誘だったので是非お願いしたい。
「わかりました。えっと、あなたは……」
「私のことはアイリスって呼んで」
アイリス。その名前を聞いてミクリアは思い出します。
神様の選挙で当選した人だ。
「あ、アイリスって、あの?」
「あ、知ってた?うん、そのアイリスであってるよ。でも、あまり堅くならなくていいからね」
そうは言っても落ちこぼれの自分とエリートのアイリス。差は月とすっぽん。
神の間で働くと言っても皆が神職に就いているという訳ではなく、神の間にある多数の施設を営業したり、まぁ、いろいろあるのだが、ミクリアはまさか神職の人だとは思ってもいなかった。だから誘いを受けたのだ。
でも、違った。
恐れ多いと断ろうとしたが、1度受けてしまったのでそれもできず、結局、神の間まで連れてこられてしまった。
「えっと、何をすれば……」
「とりあえず、ここの掃除をお願いしてもいいかな?手付かずで結構汚れてるから」
まず、最初に頼まれたのは神の間(地球館)の掃除。神の間は世界ごとに建物が別れている。この地球館は神の間の中では1番小さいが、それでもひとフロア5部屋の6階建て。かなりの広さだ。
アイリスが手付かずと言ったのも無理はない。アイリスがここに来たのはつい最近で、それまではラスフェルが1人で地球を管理していた。そのラスフェルが1階の5部屋全てと2階の寮として使っている部屋しか使っておらず3階より上はホコリを被っていた。
ミクリアはバケツとモップを持って6階まで行き、廊下の床をゴシゴシと磨いていく。落ちこぼれといえどこれくらいはできるのだ。
30分後、ようやくひとフロアを磨き終えたミクリアは、ふぅ、と一息ついて次のフロアに行くためにバケツを持ち上げようとする。
「先が思いやられる……」
その時、持っていたモップがバケツにコツンと当たり、バケツを倒してしまう。
「あ……」
当然、中に入っていた水は床にこぼれてしまう。
やってしまったと思った。急いでモップで水を吸いあげようとする。
焦っていたせいか近くに置かれていた花瓶を床に落としてしまう。
もちろん、花瓶はパリンと音をたてて割れる。
「ミクリアちゃん、調子はどう?」
ものすごい悪いタイミングでアイリスがやってきた。
「あちゃぁ〜やっちゃった?」
「すみませんすみませんすみませんすみませんすみませんすみませんすみませんすみませんすみませんすみませんすみませんすみませんすみません」
床に頭を打ち付けて見事なDO・GE・ZA!!
これでクビにされる。そう覚悟した。
「気にしないで、誰だって失敗はあるから……」
「で、でも我っ、いや、私は家事は苦手で……」
「そっか、それじゃあ私が教えてあげるから、ね?」
「アイリス様……」
この人は本当に神様だ。職業としてとかではない。性格として神様そのものだ。ミクリアはそう思った。
「うーん、そうだなぁ。床を掃除する前にまずは上の方、窓とかからかな?」
「えっ?」
「掃除は高いところから。覚えといてね」
「は、はいっ」
「ふふっ、やっぱりあなたに頼んでよかった。これからよろしくねミクちゃん」
「ミク……ちゃん?」
ミクリアは呼ばれ慣れないその呼び方に少々戸惑う。
「あ、ダメだった?そっちの方が可愛いかなって思ったんだけど」
一瞬、可愛い?いやいやそんなとは思ったが、素直に嬉しかったのでそうしてもらうことにする。
「いえ、ダメじゃないです。是非、そうお呼びください」
その後もアイリスに家事仕事を教えてもらい、なんとか最低限のことはできるようになった。料理はここの施設に食堂があったので未だに苦手なままだが、自分がアイリスの側で仕事をしているのが1番幸せだった。
ある日、アイリスが別の世界で仕事をすることになって居なくなってしまった時は寂しい思いをしたが、いつかアイリスが帰ってくる時のために掃除は怠らなかった。
半年が経ち、ようやくアイリスが帰ってきたかと思えば、よく分からん地球の人がおまけに付いてきた。
正直、第一印象は最悪。事故とはいえ胸まで触られたのだ、無理はない。
殴ってしまったのは悪いと思い、神の間のアイリスの仕事部屋の前まで運んでやったが、別に罪滅ぼし以外の気は無いのだ。
この時のミクリアは後にその地球人に惹かれるなんてことは思ってもいない。




