3-19 女神様とさよなら
「ふぃー、癒されるな」
「ジジくさいぞ?少年。お前はまだ若いだろ」
「なんとでも言え、気持ちいいのは事実だ」
そう、銭湯。日本人なら1度はこういう所でゆっくりと休みたいものだ。
壁には富士山の絵が大きく描かれている。天界にも富士山があるのだろうか。
「それで、相談というのはなんだ?」
「俺が頼んでアイリスには地球に来てもらったんだけどさ、地球に来たのは事故だし、アイリスも時期に元の場所に戻らないとって思ってたんだよな。それで、今は天界にいるわけだ」
「つまり、アイリスにはこのまま天界にいてもらおうって言いたいのか?」
「約束では俺が自立するまでって話だったんだけど、結局アイリスに家事ほとんど任せちゃってるし。このままでいいのかなって」
「今地球にいる天使たちはどうするんだ?」
「ちょうど、ラフィたちもいるからそのまま連れてってもらうことは出来る……かな」
ふむ、とラスフェルは考え込むと俺の頭の上に手を置き言った。
「アイリスがどうしてお前の世話をしてるか考えたことあるか?」
「え?」
「アイリスは天界に帰りたい。だったらスパルタでもなんでもお前に自立するようにさせるはずではないか?」
「俺も1回は考えたよ。でもアイリスは出会ったその日から家事をやってくれてるんだよ。ほとんど初対面の人にそんなことをするって言うのは、アイリスの人助けせずにはいられないっていう性格のせいなんじゃないかって」
そうか、と俺の頭から手を離してラスフェルは話を続ける。
「お前がそう言うなら私は何も言わない」
「アイリスのことだから俺だけ帰るって言ったら意地でもついてくると思う。だから……こっそり地球に返してくれないか?」
今のアイリスは異世界への転移が出来ないからラスフェルに連れて行ってもらわないと地球には来れないはず。
「構わないが、ひとつ聞かせて欲しい。どうしてそこまでしてアイリスをこの世界に残そうって思うんだ?」
「アイリスはそう思ってないかもしれないけど、天界の仲間たちと結構楽しそうにしてたみたい。地球にいる時よりも活き活きして見えた。アイリス本人は無自覚だと思うけど」
これが俺の出した答え。
自分で言うのもなんだがアイリスがいなくても生活出来ると思う。前みたいなゴミ屋敷にはならんだろうよ。
風呂上がりに定番のコーヒー牛乳をいただき、女子グループとの待ち合わせ場所で待機。
「おまたせー」
以外にもすぐにアイリスたちも出てきた。火照った体が実に艶かしい。
「明日には地球に戻るんだったな?それじゃあその前にラストバトルといこうじゃないか。卓球でな」
ビシッと側にあった卓球台を指して言うミクリア。反対側の手には既に卓球のラケットが握られている。
「断る。俺、運動は苦手だし。多分勝ち目ないから」
「そうだろう。それではさっそく……え、今なんて?」
「運動は苦手って」
「その前」
「断る?」
「なんでだ、お前、逃げるのか?」
「あぁ、逃げるとも。せっかく全勝中なんだ。勝ち逃げしたい」
「ぐぬぬ……」
いくら勝っていても最後に負けるのは後味が悪い。そう判断して俺はサミーにラケットを渡す。
アイリスが審判をしてミクリア対サミーの対決が目の前で行われている。
それを遠目に見ていると隣にラスフェルが腰を下ろす。
「良かったのか?やらなくて」
「さっきも言ったろ?俺は運動は苦手なの」
「そうではない。アイリスと最後の思い出作りだよ」
「それなら大丈夫。この半年でいっぱい作ったから」
最初は奏多と3人で川辺に遊びに行ったんだよな。そこでクルと出会って……
ハロウィンのイベントで仮装もしたな。みんなの仮装は可愛かったよ。
文化祭も結構楽しかった。怪盗騒ぎには振り回されてばっかりだったけど。
つい最近のクリスマスパーティーも楽しかった。地球に戻ったらツリーの片付けをしないとな。
最後の時間はあっという間に過ぎていき、その時はやってきた。
アイリスはぐっすりと寝ている。俺はこっそり部屋を抜け出してラスフェルの元へ。
「それじゃあ頼む」
ラスフェルは何も言わずに魔法陣を出現させた。俺はその中へと入る。
「あ、ひとつ言い忘れてた。ラスフェルもありがとな」
「……」
それでもラスフェルは黙ったままである。
ラスフェルの最後の言葉を聞く前に俺は地球へと帰還した。




