3-12 水玉天使とプール
「というわけで来たよん」
「はあ……えっと……サミーは今日何をするおつもりで?」
「んー、ヒナタくんさえ良ければなんだけど……」
やってきたのは神の間の施設内にある屋内プール。現在の季節は冬だが、温水プールになっているので客で賑わっている。
俺とサミーはそれぞれ水着に着替えて、1番大きいプールのわきで待ち合わせした。
「お待たせー」
待っているとビキニ姿のサミーがやってきた。
「それで?何をするの?」
「実は、私、パフォーマーとして色んなところに行っているのだけれど、そのパフォーマンスの練習をヒナタくんに見てもらえないかなって。どうかしら?」
「そういうことなら見せてもらおうかな」
俺は近くのベンチに腰をかける。サミーは目の前のプールに入って準備をする。
「それじゃあ、始めるわね」
何が始まるのかと見ていると、サミーは水中に姿を消し、しばらくして足を水面から出して……これはシンクロナイズドスイミング?1人だけど。
そう思ってみていると、今度は思いっきり水中から飛び出して宙へ舞った。そのまま再び水中へ潜るのかと思いきや、サミーは大きめの水玉を水面に浮かばせ、その上に着地した。
そして、水玉に乗ったまま少し小さい水玉を5個出して、ジャグリング。
3週ほどしたところで全てを上空へ放ち、そのまま破裂させ、空に虹を描いた。
それだけでは終わらず、今まで乗っていた水玉の中に入り、プールの外に出ると、その水玉を割ってフィニッシュ。カフェで出会った時と同じように礼をして挨拶。
俺が拍手をしようとしたその時、俺のものでは無い拍手が聞こえる。見渡すと、他の人の注目も浴びていたことに気づく。
「どうだったかしら?」
「いや、すごいよびっくりした」
「そう言ってもらえると嬉しいわね。でも、最近新しい技ができないかなって思ってるんだけど何かいい案はある?」
なるほど、今日の目的はそれか。できるだけいいアドバイスをしてあげたいな。
「水玉の中に入るのってカフェでもやってたけどあれって濡れないんだよね?」
「そうね。中では普通に呼吸もできるわよ」
「だったら、見てくれてる人を中に入れて何かできたりしないかな?」
「ふむふむ、なるほど。さっそくやってみるから、そこに立ってもらえるかしら?」
俺は言われるままに立ち上がる。
サミーは水玉を作り、それを俺の方へ軽く押す。
すると水玉は俺を包み込む。最初は怖くて目を閉じてしまったが、恐る恐る目を開けてみると確かに水の中だ。しっかり息もできる。
水の外でサミーがジャスチャーで奥へ行ってと言うのでサミーリアから離れるようにする。
「よいしょっと……うん。これでいいわね」
離れたと同時にサミーリアは俺と同じ水玉の中へ入ってきた。あの、ちょっと狭いんですけど……
「え、なに?」
「んー、せっかくだからこのまま遊ぼうかなって。流れるプールに浮かんでみるのも面白そうじゃない?」
いや、確かにそうなんだけどさ……
「練習はいいの?」
「うーん、ヒナタくんを中に入れたはいいのだけれど、そこからどうするかが思いつかなかったのよね。下手に割ると水しぶきでお客さん濡らしちゃうし」
「でも、カフェ出やった時は割ってもサミーは濡れてなかったよな?」
「あれは、上手く割って飛沫を避けてるだけよ。割ってしまえばただの水だもの」
「んー、ダメか」
そうでも無いわよとサミーリア。
「こうして遊んでるうちに何か見えてくるかもでしょ?」
そりゃそうだ。
それじゃあ1日ここで満喫するとしますか。
「どう?楽しいかしら?」
「うん、地球じゃ考えられないし」
「そう、それは良かったわ」
「それは良いんだけどさ」
「何かしら」
「少し近すぎではありませんかね?」
水玉の中で俺はサミーと肌を触れさせている。
「そこは大目に見てほしいな。これ以上大きくすると他の人の邪魔になっちゃうし、それに誰も見てないんだからいいわよね?それともアイリスに浮気がバレるのはまずいかしら?」
最後の一言は冗談で言ったのだろうが、まぁ、邪魔になるってのは間違ってないししょうがないか?
「アイリスは恋人なんかじゃないって。それよりもこれすごいな。水中なのに不思議な感覚」
先程のパフォーマンスでは水玉は水面に浮かび、サミーが乗っても割れなかったのに対して、今俺が入っている水玉は水中で潜水艦のような働きをしている。なので誰の目にも触れていないというサミーの言葉は間違ってはいない。だからといって、ほとんど初対面の俺相手にここまでスキンシップを取られても困ります。
「あ、いいこと思いついたわ。海の中でこうしてれば魚が獲れそうね」
「貝とかならともかく魚は無理だろ」
「そうかしら?」
そんなことを話しながら流れるプールに流されること30分。結局パフォーマンスの案は出ないまま実用的な案ばかり出てきたので1度プールから上がることにした。
「昼はどうする?なんか奢ろうか?」
「いや、いいわよ。天界へのお客さんに奢ってもらうのは悪いし」
「そうか?でもアイリスから貰ったパスがあるから基本的にはタダのはずなんだけど」
「あらそうなの?だったらお言葉に甘えようかしら」
やっぱり強いなこのパス。
サミーリアの希望で焼きそばを食べることに決まった。さっそく焼きそばを探して歩き回ると、「焼きそば」と書かれた暖簾を発見。ちょうど空いてそうなので今がチャンスだ。
「すみませーん焼きそばを2つくださーい」
「はいよっ……ッて、おまっ、なんでここに?」
焼きそば屋の店員はミクリアさんでした。
「な、なんでって、友達と遊びに来てたんだけど。お前こそ何してんの?アイリスはいいのか?」
「アイリス様が、昨日は頑張ってくれたみたいだから今日はお仕事お休みでいいって言ってくれたから。ここに来たのだが、ここが人員不足と聞いて手伝っていたところだ。なんて、口が裂けてもお前に言うわけないだろ」
全部言っちゃってるよー……
「あ、そうだ。昨日はありがとな。あの後、神の間の前まで俺を運んでくれたのミクリアだろ?」
普通に考えてあの場に他に人は居なかったし、そう考えるのが自然だよな?
「ふ、ふんっ。なんのことだ?我はお前を倒した後、担ぎあげてその辺に捨てておいただけだぞ?」
つまり運んでくれたってことだよな?うん。ありがとう。そして、ごめんなさい。
「水着、似合ってるじゃん」
ごめんなさいのお詫びとして水着を褒めてみた。
「なっ、み、見るな。それより焼きそばだろ?ほれ、持ってけ。パスは持ってるだろう?タダでいいから」
「お、おう。ありがとう」
ミクリアは触られた自分の胸を庇いながら俺に焼きそばの入ったパックを2つ押し付ける。なんか逆効果だったかな?
「お待たせ」
「ありがと、あの店員さんと知り合い?」
「まぁ、ちょっとな」
「ふーん、まぁ、いいわ。食べましょ」
そうだな。いただきます。
ん、美味しい。と言っても地球の味との差は分からない。やっぱり文化的に地球の感覚と……いや、日本の感覚と近いのか?
「あの、気になることがあるんだけど、サミーって地球の話ついてこれる?」
「ええ、学校ではその分野をとってたからね」
「そうか。じゃあ、この世界に来てみんな日本語なんだけど……それって」
「ニホンゴ……あぁ、そういう事ね」
サミーは1人で納得する。俺にもわかるよう説明してくれ。
「ヒナタくんはここへはどうやって?」
「ラスフェルの転移で魔界を経由してアイリスの瞬間移動でここまで来たな」
「そっかー、それじゃあ見てないわね。一般の天界人がよその世界に行く時、神様が作った転移陣を使うんだけど」
確か、クルやカドルもそうやって来たって言ってたな。
「その装置を使う時に、その世界の言語が勝手にインプットされるのよ。だから自分の世界の言葉を話していても相手に伝わるのよ」
「それじゃあ俺の場合は?」
「ヒナタくんは神様の権限を持ってるラスフェル様……いえ、今は神様じゃなかったわね。ラスフェルさんに連れてきてもらったのなら気づかないうちにインプットされたって可能性が高いわね。神様が他の世界に行く時もそうしているみたいだから」
ふーん、よくわかんないけどわかった。
俺は、そう思いながら焼きそばの麺を啜るのであった。うん、美味い。
食べ終わって、さっきの店の横のゴミ箱にパックを捨てに言った時のことである。
「食べ終わったようだな。それでは続きをやるとしようか」
ミクリアがそんなことを言いに来たのだった。
「続きってなんの?」
「決まっているだろ。勝負の続きだ。昨日は途中で終わってしまったからな」
あー、あれか。一撃をお見舞いされたのは事実だし俺の負けでいいんだけどな。
「でも、ここだと他の人の迷惑にならないか?」
「なに、心配はいらない。ここでできる勝負にしよう」
「と、いいますと?」
ミクリアに勝負を挑まれた俺。その勝負内容は……
「ウォータースライダー?」
「そう、ウォータースライダーだ。これを滑って早かった方が勝ち。どうだ?」
まぁ、いいけど……
ミクリアとの第2ラウンドが始まるようだ。




