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3-8 女神様と昔話

「2人ともおかえりなさいデートは楽しめた?」

「はい、まあ楽しかったです」

「晩ご飯、もう少しでできるから2人でお風呂入ってきちゃいなさい」

「うん、そうする……えっ?!2人で?」


 アイリスはエレナさんの言葉の意味を遅れて理解する。

 やっぱり、俺はエレナさんに疑われてんのかな。


「半年も付き合っているならそれくらいは当然よね?」

「そうかもしれないけど……」

「けど、何かしら?」

「いや、なんでもない」


 まぁ、そうなりますよねー。

 俺たちは結局反論できず、廊下を歩きながら反省会を開いた。


「なんかごめん」

「いえ、ヒナタさんが謝ることないですよ」

「そうだけど」

「こうなってしまっては仕方ありません。最後まで恋人を演じきりましょう」

「何となくラスフェルはこうなることをわかってこんなことを提案したような気がしてる」

「それは私も同意です」


 はぁ、と2人でため息を揃える。


「にしても、この御屋敷広すぎないか?風呂場まで行くのにどれだけ歩かされるんだよ」

「私の能力が瞬間移動なのはこれが原因かもしれませんね」

「能力って生まれ持ってのものなのか?」

「ほとんどの場合遺伝ですね。お母さんの能力は瞬間移動とまでは行きませんが自身の体を素早く動かせるので家事のスピードは速いですし、この家の中の移動も結構な速さで……」

「この家庭はとりあえず速いのな」

「そういうことです」


 と、話しているうちにお風呂場に到着してしまった……

 幸いだったのは、一般的な家庭の浴槽よりも遥かに広かったこと。不用意な接触はこれで避けられる。


「あまりじろじろ見ないでくださいね?」

「半年同じ屋根の下で生活して何も無かったんだからそれくらいは信用してほしいものだな」

「無関心というのも、それはそれで悲しいのですけど」


 どっちだよ……まったく、これだから女子の考えることはわからん。


 話し合いの末、お互い、目のやり場に困らぬように背中を向けて入ることにした。


「突然だけどアイリスってさ、好きな人とかいるのか?」

「ひゃい?!な、なんでですか?」

「いや、その何となく」

「いますよ。私だって年頃の乙女ですから」


 アイリスは一瞬戸惑いながらも落ち着いた口調で答えた。

 そうか……


「そういうヒナタさんはどうなんですか?カナちゃんのこと」

「あー、やっぱり気づいてたんだ」

「特に根拠とかもなく、女の勘ってやつですけどね」

「そっか……」


 女の勘は怖いな。


「よろしければ、聞かせてくれますか?」

「いいよ、その代わりちょっとばかし長くなるけどそれでもいいか?」

「はい」


 俺と奏多とのお話、はじまりはじまり。


「そんなことで私を呼び出したんですか?」

「スズちゃんごめんね。相談できる人スズちゃんくらいしかいなくて」

「それで、お姉ちゃんと2人きりになるように上手く仕組んで欲しいと?」


 あれは、中学3年の夏頃だっただろうか。テニス部を引退した奏多の引退祝いという体で奏多を呼び出して、告白する。それが鈴音の作戦だった。


「しかし、まあ……2年くらい前からこうして協力してますけど、なんだかんだ邪魔が入ったりお姉ちゃんの予測不能な行動で失敗してますよね。無理にシチュエーションなんて考えずに適当に告ったらどうなんです?」

「それが出来たら苦労しないよ」

「もう、とんだヘタレですね」

「うるせぇ」


 とにかく作戦実行だ。


「2人とも急にどうしたの?」

「私が陽向兄さんにお姉ちゃんのテニス部引退をお祝いしたいって頼んで打ち上げを開いたってわけ。それだからお姉ちゃん、今日は楽しんでね」

「はぁ、ありがと?って言っても私たいした成績じゃないけどね」


 県大会出てりゃ十分だろ。


 適当に打ち上げを済ませて、本題の告白タイム。


「あ、そういえば私、宿題まだだった。しばらく2人で楽しんでて」

「あ、それだったらお姉ちゃんが教えてあげようか?」

「うーん、理科と数学なんだけど大丈夫?」

「……やめとく」

「それじゃあ、ごゆっくりー」


 これ何回目だろうな……そろそろ2桁行くんじゃなかろうか……


「あのさ、奏多」

「んー、どしたのー?」

「俺さ、前から思ってたんだけど」

「あ!スズ、学校のカバン忘れてる。これ無いと宿題出来ないよね。届けてあげないと」


 ……失敗かな?


 こんなことを何度も繰り返してきたんだよ俺は。


「あれ、スズ。そんな所で何してるの?」


 鈴音は宿題なんてやっておらず……いや、もう、とっくに終わっているのだろう。俺の告白を部屋の外で見届けようとしてくれた。それが今部屋を出た奏多に見つかってしまったというわけだ。


「え、いや、その……」

「あ、そうそう。カバン忘れてたよ。宿題やるんでしょ?」

「あ、うん。それを取りに戻ってきたんだ」


 ダメだこれ、そんな顔つきで奏多からカバンを受け取った鈴音は自分の部屋に向かっていった。


「それで、なんの話しだっけ」

「いや、なんでもないよ」

「ふーん、そう」


 普通こういうのって失敗するにしてももうちょっといい感じに引っ張るもんだろ。奏多の場合瞬殺なんだよな……


 後日の反省会のこと。


「ごめんなさい。今回は私のミスです」

「いいよ、もう失敗するのに慣れてる俺が怖い」

「もう、本当に何も考えない方がいいやつですって、これ」


 結局、奏多を思い通りに動かすのは不可能だという結論に至り、告白作戦はしばらくお預けとなった。


 そのまま時は流れ卒業式。


「私、陽向のことが好き。ずっと好きだった」


 俺は奏多に先手を打たれたのだ。

 正直、奏多が俺の事をそう思っていたと知って嬉しかった。


「ごめん、今はあんまり恋愛には興味無いな。もっと奏多が魅力的な人になったら付き合ってやるよ」


 それでも俺は奏多からの告白を断った。

 奏多も断られたのはショックだったのだろう。泣きそうな自分を押し殺して、笑顔で俺に告げた。


「そっか……そしたらもっと自分を磨かないとだね。待ってて、すぐに魅力的な女性になってみせるから」


 後日、鈴音に呼び出されて、喫茶店。


「それで、なんで断ったんですか?」

「だって、あれだけ苦労して告白しようとしてきたのに奏多から告白とかそりゃないだろ」

「あの後、めちゃくちゃ愚痴を聞かされたんですけど」

「奏多はなんて?」

「陽向って何様だよ、あーもう、こうなったら意地でも振り向かせてやるー。って言ってました」

「やや怒りといったところかな?」

「それで、どうするんですか?多分、お姉ちゃん、アプローチやめないと思いますよ?」

「俺から告白するにはそれをやめさせんといかんな」


 告白するのは俺からじゃないと納得いかない。それが奏多の告白を断った本当の理由。この理由を知っているのは相談に乗ってくれた鈴音だけ。


 そんなことも知らず奏多は俺へのアプローチをやめないのだ。


 これがアイリスたちと出会う前の俺と奏多とのお話。それをアイリスに話す時が来るとは思わなかったな。


 くそー、奏多め、覚えてろ?いつか必ず俺の告白を受けてもらうからな?

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