2-10 大食い少女と推理
「陽向兄さん、それって例の怪盗騒ぎのですか?」
「そう、スズちゃんも張り紙見たんだ」
「はい、でもこれでひとつわかりました」
「え、何が?」
「最初の暗号ですよ。今回取られたのは理科部のフラスコ。文字を仮名におこすと全部行が一致するじゃないですか」
『りかぶのフラスコ』
『れかぼぬホラソク』
「ほんとだ」
「そして、あ段の文字はそのまま、い段とえ段、う段とお段の文字がそれぞれ入れ替わってます」
「すごい。スズちゃんってこういうの得意なの?」
「そんなことないですよ。これくらい誰にでも分かります」
少なくとも俺にはわからなかったんだけど?
「同じ要領でこの暗号にそれを当てはめると……」
『ふい゛なせんちひとえしにん』だから……
『ほえ゛なしんてへついせねん』
………………
「なんのこっちゃ……」
「んー、違うのかなぁ。『ん』の扱いを変えたとしても読めそうにないですね」
そもそもその法則では『い』に付いている濁点はどうやっても解決しない。
まぁ、暗号のことは後回しにでもしよう。
それよりも……
「アイリス、お前始まる前にトイレに行ったよな?」
「え、はい」
「確か、最初の張り紙事件の時も一瞬持ち場を離れたそうじゃないか」
「そうですけど……」
よし、それなら結論はひとつ。
「アイリス、文化祭の間は俺と一緒に居てくれ」
「え?あ、は、はい?」
再び発火するアイリス。マジでこいつどうしちゃったんだ?
「俺が一緒に居ればアイリスのアリバイ証明になるしな」
「あ、うん、そうですよね……ははは」
んー?
とりあえず今の出来事をイオに報告しよう。
怪盗のカードを写真に撮ってイオに送る。
「怪盗はどこっスか?」
「うぉ、どこから湧いた?」
「記事ネタあるところ新聞部ありっス」
「そうかい、スマホにカードの画像送っといたよ。取られたのは理科部のフラスコ」
イオは自分のスマホに送られている画像に目を通す。
「なるほど、次の標的は2年1組っスね」
「え、この暗号わかるのか?」
「この、スマホのイラスト。最初のとは違うってことは、これはヒントっス」
「ヒント?」
「最初の標的が理科部のフラスコだったなら最初の暗号はスマホの文字入力っスよ」
イオの説明によるとひっくり返ったスマホはスマホの入力を反転させるということ。スマホの文字入力は『あかさたなはまやらわ』のパネルをフリックさせることで入力を行なう。一般的に左から時計回りに、い段、う段……という順番になる。これを上下左右反転させると暗号の鍵が完成するというわけだ。
「それで、今度の絵は左向きの矢印。つまり、今度は文字入力を左にひとつずらすってことになるっス」
スマホの入力パネルは上段に『あかさ』、中段に『たなは』、下段とその下に『まやらわ』がある。それぞれ左にずらすと、左上から順番に『さあかはたならまやわ』の順番になるというわけか。
それを使って暗号を解読すると……
『つぎはえんにちのけいひん』
『次は縁日の景品』か
「そうと分かればさっそく2年1組に行くっスよ」
場所は変わって2年1組。出し物として縁日をやっているのはここだけだ。
「すみませーん。少しいいですか?」
「はーい、2の1縁日へいらっしゃーい」
「あ、俺客じゃなくて、怪盗アスカの件について調べてて」
「あぁ、またか」
「またって?」
「さっき新聞部の人が同じ用事で尋ねてきてね。君もこれ目当てなんでしょ?」
その人は1枚のカードを差し出した。
『縁日の景品はいただいた。トロフィーまであと4つ 怪盗アスカ』
なんと、既に取られていたのか。そしてトロフィーの他にもまだ4つも盗るつもりということか。
えっと、次の暗号は……
『次の獲物はステージのマイクだ』
え、今度は暗号無し……なのか?ヒントのイラストも書かれていない。
一体どういうことだろう。
(陽)なんで推理小説要素が入ってんだこれ
(作)特に理由はない
(陽)お、おう
(イオ)新聞部の記事ネタにはちょうど良かったのでアリっスよ
(陽)お、おう