1-11 女神様と最後の試練
「たしか、こっちの方だったよね」
「うん」
奏多とアイリスもまた、3人目の俺を探して商店街に来ていた。
「あそこ、陽向さんいたよ」
「お、ほんとだ。おーい、陽向ー」
奏多の呼びかけに俺は振り返る。
「な、なんか様子おかしくない?」
「え、そう?」
アイリスは俺の様子に違和感を持つも、奏多はそんなことないと否定する。まったく、どっちが幼なじみかわからなくなってきたな。
一方、俺は振り返ったまま、その場に立ち尽くしている。
「ほら、やっぱり陽向さん変だよ」
「そんなことないでしょ。きっと私から来て欲しいんじゃないの?あれでも陽向は甘えん坊さんなんだから」
いつから俺は甘えん坊という認識をされていたのだろうか……
しょうがないなと俺のもとへ駆け寄る奏多。その奏多を俺は右手を振りのけて突き飛ばした。
「カナちゃん!!」
「ぅぐっ、ひ、なた?」
奏多を突き飛ばした俺は、横たわる奏多の横を通り抜けてまっすぐアイリスのもとへと歩いていく。
「アイリス、その陽向は偽物だよ!逃げて」
奏多はアイリスが自分のようにならないように呼びかける。しかし、アイリスはその場から動かずに、じっと俺が来るのを待っている。
「陽向さん……ですよね?」
「……」
もちろん、俺からの返事はない。
手の届く所まで接近した俺はアイリスに向かって思いっきり拳をふるう。
即座に反応したアイリスは防御の構えをとり、間一髪のところで俺の拳を受け流した。
「アイリス、大丈夫?!」
「ええ、何とか。そして、この陽向さんが本物の陽向さんみたい」
「だったら気をつけて。陽向、昔空手習ってたからまともにやり合うなら分が悪いよ」
「なるほど。残り時間は……あと30分。クルちゃんたちに助けを求めてる時間は無さそうね」
アイリスも奏多も武道は不得手なため、まともにやり合うには分が悪い。そのため、アイリスがとろうとした行動はただ一つ。
「カナちゃんはクルちゃんたちをここに呼んできて」
「アイリスは?」
「恐らく、この陽向さん、体のどこかに聖水を持ってるはずだからそれを奪って無理矢理にでも飲ませる」
「でも……アイリス1人じゃ」
「1人じゃ無理かもしれないからクルちゃんたちを呼んできて欲しいの。お願い急いで」
「う、うんわかった」
奏多は渋々、アイリスの言うことを聞くことにした。本当はアイリス1人を危険な目に合わせたくはなかったが、だからこそ助けを呼ぶ必要があると判断したからだ。
「さてと、これで2人きりですね」
「……」
「どうしました?先程の凄まじいパンチはもう出来ないのですか?」
「……」
アイリスは挑発するように俺を自分の元へとおびき寄せる。
俺はアイリスのもとへと歩いていき、再び手の届くところまで来たところで拳を放った。
アイリスは防御するでもなくその拳をそのまま受けようとする。
俺の拳がアイリスのもとへと届く直前にアイリスは姿を消した。
「残念でした。同じ攻撃はもう通用しませんよ」
種明かしをすると、アイリスは挑発をしている間に転移の準備を始めていた。ちょうど20秒後、俺の拳が放たれると同時に俺の背後へと転移したというわけだ。
俺は背後に回り込んだアイリスを跳ね除けようと腕を振り回す。
その行動まで読んでいたかのようにアイリスは後ろへと後退してそれを躱す。躱したアイリスの手にはしっかりと聖水の入った小瓶が握られていた。
「とりあえず、聖水はとれましたね」
背後に回り込んだ瞬間に俺のポケットから奪った小瓶を手に再び俺に接近しようとするアイリス。そこで、ふとあることに気づく。
「飲ませるのはさすがに無理じゃないですかぁ」
所持品を奪うだけなら隙を見て一瞬で行えるが、抵抗する相手に飲み物を飲ませるのはほぼ不可能に近い。
これを、飲ませるのが最後の試練であるとアイリスは悟った。
残り時間はあと15分。
※ア=アイリス
ア「最後の試練と言いますけどこれが終わったら私は帰れるんですかね?」
作「あなたが帰るとこの物語が終わっちゃうので私的には残って欲しいですね」
ア「最後とは……」