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うちの聖女様は怒らせたらマジでヤバイ  作者: うる浬 るに
聖母は延命を望まない「カッサ王国編」
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09 この気持ち、嘘ではありませんよ

「この方のそばにいるようになってから、私の世界が広がりましたし、一緒にいると楽しくて、褒められたら嬉しくて、だから、ほかの人ではダメなんです。私のような未熟者がまさかトバイアス殿下の婚約者()()として、お目に留まるとはとは思いもしなかったので、事前にお伝えできず、申し訳ございません」


 私はトバイアス王子に向かって頭を下げる。


「ロ、ローザ殿は優秀だと聞いていたので、念のため婚約者()()として挙げさせてもらったが、そうであるなら撤回するとしよう、聖女殿との話もそうだが、どうやら、ゼ・ムルブ聖国の者とは意思の疎通がうまくいかないらしい……」


 トバイアス王子は私の『婚約者()()』という言葉に乗っかりながら、自分に都合よく話を進め始める。もう私には興味がなくなったのか、この話もなかったことにしたかったようで、さっさと壇上へと上がっていってしまった。


 これで、なんとか切り抜けられた。

 大広間は、まだざわざわしているけど、こちらがへりくだることで、トバイアス王子にそれほど痛手を与えず、婚約の話もなかったことにできたはず。


 私もやればできるのだ。


 きっと、ここに集まっている貴族たちは、私の想い人をライルだと勘違いしていると思う。

 だけど、実際にはそんなわけもなく、叫んだ言葉はすべて、ルル様へ向けた信愛の気持ちだ。

 敬愛しているルル様を思い浮かべれば、いくらでもそれっぽい言葉は口から出てくるので、ライルに視線を向けながら、うまく誤魔化すことができたと思う。


 今まで数々の修羅場を目の当たりにしているし、自分自身関わったこともあるから、それに比べたら、このくらいは、なんてこともない。恐れおののいていた、初な私ではもうないのだ。なんとかうまく収まったので、日々成長しているのだと自分でも実感している。


 普通の聖女の成長とは、ちょっと違う気もするけど……。


『わしは婚約発表をすると聞いていたのだが……』

『殿下の勇み足だったのだろう』

『トバイアス殿下が本当にウォークガン帝国と友好関係を築くことができていれば、誰も文句は言わなかっただろうに』

『あんな小娘どもに期待などするからいけないのだ』

『本当に小さい方が聖女なのか? あれが、皇帝の寵愛を受けているだと? それにしては……』

『神の力が使えると言うのも、噂に尾ひれがついているのであろうよ』

『さよう、ゼ・ムルブ聖国はお高くとまっていて鼻持ちならない』


 それにしても、周りの貴族は、言いたい放題だ。トバイアス王子のせいでとばっちりをうけてるんじゃないの?


 トバイアス王子は聖母と一緒に、王都で飢えていた人たちを救っていたんだから、そういった良いことを続けて、名声を高めた方がいいのに。

 なんでこんな残念な作戦に出ちゃったのか……。


 今回トバイアス王子はジュリアス王子を手っ取り早く蹴落とすために、ルル様と私を使って自分の価値を高めるような小細工をしようと企んだんだとは思う。

 ファーガス皇帝はこの大陸において、その名前を出すだけでも影響力がある存在のようなので、すごい切り札を手に入れたと思ったのかもしれない。

 皇帝の人となりを知っている私としては何とも言えないところなんだけど、施政者としての偉力は凄いんだ。


 それにくらべたら、あまりにも聖女の扱いが杜撰すぎないだろうか。この国はゼ・ムルブ聖国から距離があるから、他国では要人扱いされていることを知らないのかもしれない。

 貴族たちの言動もどうかと思うようなものばかりだし。


 それと、聖女は簡単に婚約なんてできないのに、トバイアス王子はそのことをリンダに聞いてないのだろうか。

 それとも見習いなら問題ないと思った? 支度金も値切られると?


「あれ? でも本当にどうなんだろう?」


 自分のことだけど、今まで気にしたことがなかったから、私が嫁にいくとなった時の条件はまったくわからない。


 まあ、行く気もないしな。そう思いながら肩から力を抜いていると。


「うひゃっ」


 立ち位置を、前方から私の真横に移動していたライルが、突然、私の手を握った。


「な、何!?」


 いきなりだったから、さっきの告白を真に受けたのかと思ってちょっと焦ってしまう。


 驚いた私が文句を言うために横を向くと、違う方のライルの腕は、ルル様を守るようにその肩に置かれていた。


「集まった皆様に周りを囲まれてしまいましたからね。このまま出口まで行きますので、少しの間我慢してください」


 誰かと違って、ライルは空気が読めそうだから、流石にあれは芝居だということを、ちゃんとわかっているよね。


「わかりました……」


「ルル様、ここから移動しようと思いますがよろしいでしょうか」

「ええ、ご挨拶も済みましたし、わたくしたちは失礼いたしましょう」


「でしたら、我々も」

「ええ、そうね」


 伯爵と聖母、それとリンダもここから脱出するようだ。


「では、参りましょうか」


 ライルに手を引かれながら、動き始めようとしたその時。



「お待ちになって、聖女様」


 ルル様を呼び止めたその声は、王妃が発したものだった。私たちは振り返って壇上に目を向ける。


「トバイアスの茶番で時間を取ってしまいましたけれど、わたくしの方は、まだ用件が済んでおりませんのよ」


 王妃の用件?


 すべて終了して、やっと帰れると思ったのに、さっき王妃がとった態度といい、とっても嫌な予感がするんだけど……。

 

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