22 それは誤解です
不審な薬屋の治癒力は、聖教会の幹部が予想した通り、行方不明だったサリー改めモニカの能力だということが確認できた。
あとは彼女を聖都に連れて帰れば一件落着だ。
これで今回の私たちの仕事は終了。
ちなみにイヴの両親は薬屋をたたんでから、聖都には向かわず、ぜ・ムルブ聖国のどこかの町の治療院で雇ってもらえそうなところを探してみるらしい。
人手の足りない治療院は多いから、きっとすぐに見つかるだろう。
「すべて丸く収まってよかったですね」
「薬屋の件だけはそうね」
「他にまだ何かありましたっけ?」
「それは王都に戻ってからになるわ」
王都に戻ってから? モニカの件をサリーの叔父夫婦に説明する必要があるのかな?
私たちは来た時と同じように乗合馬車を使って、今度は八人で聖都に向かう予定だ。護衛の人数が増えたけど、そこはグラントが采配を振るっているので問題ないだろう。
薬屋での乱入を反省したセレンは、気持ちを入れ替えて、モニカのことには目もくれず、今はしっかりとルル様の護衛に集中している。
イヴ家族との話し合いの後、モニカたちにはセレンの奇行のことは説明しておいた。
イヴの両親とこれからのことを決めたあとすぐに、モニカたちも王都へ一緒に帰ることを聖騎士の四人に伝えたので、その時にモニカとセレンはすでに挨拶は済ませてある。もちろんグラントもだ。
「あたしが逃げ出したせいで、五年も胸を痛めていたなんて、すみませんでした」
「そんなことはありません。私たちがきちんと警護していれば、モニカさんが酷い怪我を負うことはなかったはずですから、こちらこそ申し訳なかった」
「ううん、それは自業自得だもの。それにあなたたちには悪いけど、あたしはあの時、見つからなくてよかったと思ってるし」
「それでも、本当に無事で良かったですよ」
たしかモニカたちはそんな会話をしていたと思う。セレンがまた変なことを言い出さないか心配したけど、とりあえず問題はなかった。
それでも私にはセレンに言っておきたいことがある。
帰路の休憩中に、思いきってセレンに声を掛けてみることにした。
「セレンさん、護衛中すみませんが、ちょっといいですか?」
「なんですか、ローザさん?」
「ここではちょっと」
「わかりました」
グラントにルル様のことを頼んでから、みんなには話が聞こえない場所まで二人だけで移った。
「聖都に戻ってからですが、モニカさんに対して迂闊なことは、絶対に言わないようにお願いします」
「あ、先日は失礼しました。今後は、公私混同はしませんのでご安心を」
それは逆だ、公の時間に話をするのはまだいい。問題なのは、セレンが仕事でもないのに、モニカに接することだ。
「プライベートならなおさらです。絶対にやめてあげてください」
「どういうことでしょうか?」
「モニカさんを気に掛ける気持ちはわかりますが、たぶんそれはモニカさんの負担になると思うんですよ」
「私が負担に?」
「えっとですね、遠回しで私の言いたいことが伝わらないと困るので、はっきり言いますよ」
「はい」
「セレンさん、すごくもてますよね? 女の子たちにキャーキャー言われてるんですよね? そんな人が、修業を始めたばかりの聖女見習いのモニカさんを特別扱いしたら、周りはどう思うかわかりますか?」
「――いえ」
私が何を言っているのか本当にわからないといった表情のセレン。
「モニカさんはセレンさんに好意を寄せている方たちから嫉妬されます。絶対に妬まれます。可哀そうだから罪悪感だけで、彼女に接するのはやめてあげてくださいって言ってるんです」
助祭をめざしているイケメンのマルセルが、同じように罪悪感から私に構うから、羨ましがられたり、嫉妬されたりで、こんな私でさえ大変な思いをしている。
それがセレンだったら、どれだけ絡まれることか。
「そんな心配はないと思いますが」
セレンは私の懸念が伝わらないようで、きょとんとしている。無自覚なのが一番困る。
「そんなことあるんですよ! それでも、もしセレンさんがモニカさんに関わりたいのであれば、誰にも見つからないように、コンタクトはこっそりとってあげてください」
「はい……ローザさんがそうおっしゃるのなら、そのようにいたします。ご忠告ありがとうございました」
納得はしてないっぽいけど、言うことは聞いてくれるらしい。
セレンはもてるわりに、今まで修羅場になったことがないのか?
それでも、とりあえずこれで、モニカが嫌な思いをすることはないだろう。
話が終わってからみんなのところに戻るとライルから話しかけられた。
「もしかして、やきもち?」
「は!? 意味がわからないんですけど? まさか話を聞いてたんですか?」
「いえ、とても険しい表情でお話しをされていましたし、ローザさんは初めからセレンが気になっていたようなので、そう思っただけですよ」
「それはとんでもない誤解ですよ」
「そうなんですか?」
なんでそんな勘違いを? そんなつもりないし、絶対違うから。




