17 超常現象、怖い? 怖くない?
どうにかたどり着いた時計塔の天辺から見た景色は、とても素晴らしいものだった。
町全体を三百六十度見渡せることはもちろん、ゼ・ムルブ聖国と別側になる方面は遥か彼方に山脈がそびえ立ち、その麓に大きな湖も望める。
ここからでも新緑の中で湖面がキラキラと美しく光っているのが見える。
さっきまでゼイゼイ言っていたのが嘘のように、私はとても清々しい気分になった。
「連れてきてもらってよかったです」
「それなら良かったです。夕日が沈む頃や朝日が昇る時間帯はもっと幻想的ですよ」
「いえ、もうこの美しい景色だけで充分です」
二度目があったとしても、それは自分一人でここまで登れる体力がついてからだ。
それから私は、町を見下ろしながら、ライルにこの町の施設やお店の説明を聞いたり、町に伝わる昔話を教えてもらったりした。
「あそこに古城があるのはわかりますか?」
「あの森の中ですよね?」
「今は廃墟になっていて、噂では出るそうですよ?」
「出るって、幽霊ですか?」
「はい。誰もいないのにドアが開いたり、彫像が動いたりするそうです」
「へえ、そうなんですね」
「あれ? ローザさんはそういうの平気なんですか?」
「お化けのこと? 話だけなら怖くはないですよ。実際に見たことがないので、体験してみないと平気かどうかはわからないですけど」
ふつう、幼い子どもたちは怖がるらしいけど、私が小さかった頃は、お化けよりご飯が食べられなくなる方が怖かった。
育った環境のせいで感性が人とは違うのかもしれない。
それに最近は、ルル様の奇跡を目の当たりにしていて、私が理解できない不思議なことがこの世にはたくさんあることを知ったから、幽霊がいてもおかしくないと思う。
もしかしたら念動力みたいな能力を持っている人がいて、こっそりいたずらしてるんじゃない? とか、勘ぐったりもしてしまう。
「そうですか。女性はみんな怖がるものかと思っていましたが、ローザさんは違うようですね」
「ちょっとずれていることは自分でもわかってますよ?」
感性だけではなく、聖教会の、見習いも含めた聖女の中に、私より口が悪い人なんてたぶんいない思うし。
「ローザさんはそれでいいんじゃないですか。何でもかんでもキャーキャー騒ぐ女性より私は護衛がやりやすいですから」
「え?」
ライルと二人で話していたところ、今まで黙って話を聞いていたセレンが、フォローのつもりなのか突然そんなことを言った。
「――ありがとうございます」
だけど、それは中身を知らないから言えることで、聖女としては、絶対そのままではダメだと思うけどね。
その後、時計塔を降りて、ライルのお勧めのお店で昼食をとり、焼き菓子屋でルル様へのお土産のクッキーを買った。
予定より少し早めだけど、疲れてしまったし、ついでに自分自身で癒しの練習もしたいから、二人にお願いして宿屋へ戻ることにした。
「ただいま戻りました」
「お帰りなさい。ローザは楽しめたかしら?」
「はい。ライルさんたちに町の時計塔に連れていってもらいました。今度はルル様もどうですか? 遠くまでよく見渡せましたよ」
「それは、気持ちよさそうね」
「是非。とは言うものの私は体力がなくて一人では登り切れませんでしたけどね。あ、そう言えば、幽霊が出る古城があるんだそうです。ルル様は興味ありますか?」
ルル様の反応が知りたくて聞いてみた。
「幽霊? 本当にいるなら、会ってみたい気もするわね」
「怖くはないですか?」
「わたくしたちは神に見守られているのだもの。大丈夫よ」
「ですよねー」
ルル様も私の仲間だ。
聖女自体が超常現象を起こしているんだから、怖がらない人も実は結構いるんじゃないのかな。




