08 最後の夜
最終日、滞在中にご支援いただいたお礼と、今日、ゼ・ムルブへ戻る旨を告げるため、王様と王妃様のいる王宮へと向かう。
当たり障りのない社交辞令を並べた私たちがお二人の元から去る際に、とても残念そうにされていたのが印象的だった。
自分たちの息子が、ルル様の御心を射止めることができなかったことを察したからだろう。
今までのことを顧みると、この国に少しでも留まっていたら、何を言いだされるかわからない。
そのため、ルル様は夜会を辞した足でゼ・ムルブへ出立する予定をみんなに組ませていた。
私や護衛の聖騎士たちも、一刻も早くこの国から去りたい気持ちは一緒だから、たとえ真夜中の移動になったとしても反対する者は誰ひとりいなかった。
「やはり、これはちょっと」
夜会の準備をしていた私は自分のあまりの姿に嘆息していた。
「ええ、本当にこのままでは外に出られないわね……たしかローザはジャック様にショールをいただいていたでしょ? それを肩にかけておいきなさい」
「そうでした。そうします」
私のドレス姿はあまりにも胸を強調したもので、ほとんどの時間を修道服で暮らしいてる私たちの目から見たら破廉恥だと思われる部類のものだった。
昨日公爵家でジャックと会った時、夜会のドレスをエラン王太子に用意してもらったという世間話をした。
その後、突然宿へやって来たジャックに「絶対に必要になると思いますから」そう言われて無理やり渡された赤いレースのショール。
それが本当に役立つとは。
というより、その思考にたどりついたジャックも似た者同士なのだと思うけど。
夜会は数時間のことだ。我慢できないわけではない。
ちらっと準備をしているルル様を覗き見る。ルル様だってあんなひどいドレスで過ごさなければいけないのだから、私ばかり不満を言っていてはいけないと思う。
用意ができてから部屋を出た私たちふたり。廊下ですれ違う人たちがみんな二度見する。
貴族の間で、それはマナー違反なのではないのだろうか?
それは護衛の聖騎士たちも例外ではなかった。一瞬固まってから、あとは見ぬふりをしながらいつも通りの職務をまっとうしていた。
今夜の夜会は王太子の主催で、二十代前後の若者だけが招待されているそうだ。だからそれほど畏まったものではないと聞いている。
ルル様が癒した方たちは比較的年配の方が多かったので、たぶん若年の貴族からは興味を持たれることはないだろう。
アマンダが変なことを触れ回っていなければだけど……。
だから、私たちは聖女とその見習いらしく、なるべく目立たないように隅っこで過ごすことに決めていた。




