07 公爵令嬢アマンダ
「ジャックって本当にダメな子なの。いつもどこか痛いって言っているのよ。あんな、気も身体も弱い弟が次期公爵なんて大丈夫なのかしら。できることなら私が継ぎたいくらいだわ」
「アマンダ様は公爵になりたいのですか?」
「そうしたいところだけど法律上それは無理なのよね。婿養子をとって私が公爵家に残った方がいいと思わない」
「アマンダ様もジャック様も雲の上の存在ですもの。私のような者が、比べるなんて烏滸がましいことはできませんわ」
「そう?」
アマンダは、ジャックも褒めるルル様の言葉には納得がいかないようだ。この姉はいつも弟を蔑んでばかりいる。
一ヶ月以上この国に滞在しているなかで、アマンダとは一番接触が多い。それはどこにいようと、いつも突撃してくるからなんだけど、ジャックの悪口ばかり言っていて、褒めているところを見たことがなかった。
「ねえ、そんなことより聖女様。この目の下あたりが気になって仕方ないの。どうにかしてくださらない」
人払いをした応接室でアマンダがルル様におねだりを始めた。
「アマンダ様は完璧ですのに、気になるところなどございますの? わたくしの力など必要ないと思いますわよ。いつもとても素敵ですもの」
「でも、ほらここ。少し黒くなってないかしら」
それはただのクマだ。
「アマンダ様のこの症状は身体の疲れからくるものだと思いますよ。一応癒してみますが、ご自分で節制なさらないとまた気になるかもしれません。夜遊びもほどほどになさってはいかがかと」
「そんな意地の悪いことおっしゃらないで。このままでは恥ずかしくて今日の夜会に出席もできないわ。聖女様、お願いよぅ」
命にかかわるわけでも、生活に支障をきたすこともない、本当にどうでもいいことでルル様に癒しを乞うこの女が私は好きではない。
クマ? ほとんどわからないし、そんなもの白粉でもはたいておけと言いたい。
「何か文句でも?」
「いいえ、私は何も」
私の思考を読んだのか、私に冷たい視線を送るアマンダ。なんて目ざとい女なんだ。
ルル様はいつも、アマンダのおねだりに嫌な顔ひとつしないで皮膚のシミやシワを消してあげている。
私は聖女を目指していても、心の中は普通の人間なのでルル様のようにすべてを許し、すべてを救うことなんて無理だと思ってしまう。
貴族からの希望は、アマンダをはじめ、どうでもいいようなバカげたことが多いからだ。