04 薬屋の少女
「それでは我々も行きましょうか」
「そうですわね」
今回は聖教会とは関わらないことが前提の旅。なので、今日は街の宿に泊まることになっていて、場所を探さなければいけない。暗くなるまでに時間もあまりないので、役割を分担して別行動することになったようだ。
トリスタンを見送ってから私たち五人は目的の店へと移動する。
私は常にルル様の横をキープしつつ、反対側にセレンが並ばないようにルル様を守りながら、時にはわざわざ間に入って邪魔をして歩く。
私の挙動不審な行動にライルから『ローザさんてもっと落ち着いている人だと思ってましたよ』なんて言われたけど、ルル様のためならライルたちに何と思われても構わない。
そう思っていたけど、あとで、実はルル様の護衛の邪魔になっていたことに気がついて、それはさすがに反省した。
私がおかしな行動をしているうちに、怪しまれている薬屋に到着する。
「あそこにいるんですよね?」
「ええ、まずはお店の方とお話をしてみましょう。ご本人が店番をしていらっしゃるかもしれませんし」
私たちが話しながら眺めているのは、大通りから路地を一つ入った場所。その一角に立っている小さな薬屋だ。
もし教会が探している少女じゃなかったとしても、不審者がいるとして最寄りの教会から連絡がきたくらいだから、どんな人物なのか確認をしておく必要があるらしい。
不審者――なぜ、この薬屋の者がそう言われているのか。
それは、この薬屋で売っている品物が、薬師たちの作っている薬とは全くの別物だからだ。しかも、調べてみたら、茶葉をただすりつぶしただけのものだったらしい。
そんなまがい物だから、効果があるはずもないのに、最寄りの聖教会の者たちが試しにこの薬屋を訪れて確認したところ、本当に身体の調子がよくなったり、怪我の痛みに効いたそうだ。
そんな不思議なことが起こっていたので、この国にある聖教会の支部が、このあり得ない状況を聞いて、怪しんだり頭を悩ませたりした。結局は、真実がつかめず、最終的に、ゼ・ムルブ聖国の総本山に連絡を入れたのがことの始まりだ。
報告を受けた大司教たちが話し合い、内容からして、もしかしたら効果があるのは『聖女の癒し』で、その店の者が行方不明になった少女ではないかという結論に達したらしい。
「とりあえずローザとお店に行ってみますわ。グラント様たちはこちらで待っていてくださる」
「ですが!」
「やめろセレン。我々はルル様の指示に従えと言われているだろ」
ルル様に進言しようとしたセレンの肩をグランドが掴んで自分の後ろに下がらせた。
何かを隠しているのであれば警戒しているだろう。あんな小さな店に、通りすがりの旅人が、突然大人数で押しかけたりしたら、怪しんでくれと言っているようなものだろう。
「ルル様のことは私に任せてください」
そう、聖騎士のみんなに言葉を掛けてからルル様と私は歩き出す。
さすがに薬屋に薬を買いに行って、刺されるなんてことはないだろう。その辺を歩いていて刺されるようなことがあるのはウォークガン帝国くらいだ。と思いたい。
ルル様の横で、首だけ曲げて自分の肩越しに後ろをチラッと見てみる。セレンは眉間に皺を寄せながらも、私たちを追ってくることはしなかった。
護衛の聖騎士からしてみれば、対象者と離れることは苦渋の選択なんだと思う。それでもルル様の言葉は絶対だ。
今までのルル様専任の聖騎士たちも必ず従っていた。待てと言われたら待たないといけない。それは私たちの姿が、犬じゃないとしてもだ――って、やばいルル様に毒されているかも……。
件の薬屋に入ってみると、正面に支払いカウンターがあり、その奥に陶器の壺がいくつか並んでいた。
情報だと、あの壺の中身は、どこでも安価で手に入る、一般人が普通に飲んでいる茶葉をブレンドしたものらしい。だったら、ここは薬屋じゃなくてお茶屋さんでいいんじゃないの?
まあ、効果があるから薬屋としているんだろうけど、詐欺だと訴えられれば、茶葉を薬草と偽って売っているんだから間違いなく罪になるだろう。
「こんにちは。町の人にこちらの薬屋を教えてもらったんですけど、風邪に効く薬は置いていますか?」
「いらっしゃいませ。風邪ですか? 症状にもよるんですけど、調子が悪いのはお客様自身ですか?」
ルル様と会話しているのは私と同年代ほどの女の子だ。
行方不明の少女は十五歳だから年齢的には範囲に入っていると思う。
見た目も、栗色の瞳と髪で情報通り。
でも、その組み合わせは世の中に一番多いので、聖教会が探している少女と断定することはまだできない。
「ええ、そうなの。私たちは旅の途中なんですけど、昨日から喉が痛くなって困っているんです」
「喉ですね。患部を見せてもらってもいいですか。それからお客様にあったものを調合しますから」
「貴女が?」
「はい。ちゃんと修業はしていますから、これでも腕は確かなつもりです」
「そうですか。だったらお願いします。貴女のお名前をうかがってもよろしいかしら?」
「イヴです。お口を大きく開けてもらえますか」
イヴ……行方不明の少女とは名前が違う。だけど、何か事情があって偽名を使っている可能性もある。
ルル様はイヴに言われた通り、上を向いて口を開いた。
「赤くなってますね。痛いのはこの部分だけですか」
そう言って少女イヴはルル様の首にそっと手を当てた。
事前に聞いているからそう思えるのかもしれないけど……イヴがやっているそれが、私には聖女が癒しを施しているようにしか見えなかった。




