03 聖騎士がもてる理由
シャンヒム王国までは乗合馬車を使うことになっていたので、馬車乗り場まで五人でやって来た。
私はルル様の隣に座りたかったのに、ルル様を挟むように護衛の聖騎士が両側の席に座るようだ。しかたなく私はルル様の向かい側の正面に座ることにした。
グラント、ルル様、その向かい側にトリスタン、そして私が次に乗り込んだ。そのあと、ルル様側にライルとセレンのどっちが座るかで二人が足をとめる。
ここまで歩いてくる間に感じた印象だけど、ライルは社交的で人と合わせるのがうまい。
だけど『私は聖女様たちを守れる立場であることに至高の幸せを感じています』とか『お二人の笑顔を絶やさないように、憂いはすべて私が取り除きます』みたいに歯の浮くような言葉を平気で言うから、ちょっと軽く感じる。
逆にセレンは実直で無口、会話は短い返事しかしないし、冗談は通じなさそう。
グラントはすべてに目を配っている感じで、こちらから話しかけない限りは警護に集中している。でも、質問にはきちんと答えてくれるから、この人がリーダーだということで、安心感がある。
トリスタンは、護衛にしてはいつもニコニコしていて柔らかい感じだから周りを和ませる。それ以外は、別段とりたてることもない真面目に仕事を淡々とこなす一般的な聖騎士だと思う。
接触した感触では、四人とも阿呆臭はしないと思っていたんだけど、実はそうでもなかった。
「貴女はよく見ると両目の色が違うんですね」
「はあ?」
ここで馬車を待っている間に、そう発したのは、余計なことは口にしないと思っていたセレンだ。いつまでたっても私の観察眼はあてにならないらしい。
確かに私の瞳はよく見れば薄いグリーンとゴールドだ。
だけど、それほど差があるわけでもないので真正面から目を合わせなければ、ほとんどの人が気がつかない程度。横から話しかけているくらいでよくわかったな。
私がセレンの言葉にこめかみをひくつかせて嫌な反応を示したのは、オッドアイをもつ者は魂が二つあるとか、何かがとり憑いているだとか、悪い意味で言われることが多いからだ。
そういうこともあって、聖教会に仕えている人たちは、私の目の色に気がついたとしても、あえて口にすることはなかった。それをいきなり失礼な奴だ。
例外として、コーデリアだけはキャベツ色と松脂色ってわざと言うけど、それは紫キャベツ色のことを根に持っているから仕方がないと思っている。
「すみません。きれいだと思ったから声に出てしまっただけです。悪気があったわけではないので気を悪くしないでください」
「そういうことならいいですけど……」
突然何を言い出すのかと思えば――なるほど、こうやって誑し込むから女の子がキャーキャー言うのか。
真面目そうだと思っていたけど、セレンは見た目と中身が違うらしい。悪いけどその手にのるほど私は世間知らずではない。
ダンダリア王国、ケルパス王国、ウォークガン帝国と立て続けに、もまれにもまれすぎているからな。
結局、馬車の席はグラント、ルル様、セレン、そして向かい側にトリスタンと私、ライルが座ることになった。たらしのセレンをルル様に近づけたのはまずい。今後は私が壁にならなければ。
他にも相乗りの客がいるので、馬車では教会関係の話はできない。
トリスタンやライルとも「天気がよくて良かったですね」とか「シャンヒム王国の名物ってなんでしたっけ」などの当たり障りのない会話だけをして過ごしていた。
だけど、自分のことより、ルル様とセレンの会話が気になりすぎて、トリスタンたちから話しかけられてもおざなりの返事しかしていなかったと思う。
まあ、あのファーガス皇帝さえもあしらえるルル様のことだから、私が心配する必要はないんだろうけど。
目的の場所が隣国だし、馬車が聖都から直通だったこともある。そして、そこがゼ・ムルブ聖国寄りの町だったので、現地へはその日の夕方に到着した。
休憩時間以外ほぼ馬車に揺られていたので、私は固くなった身体をほぐすため大きく伸びをする。
「ルル様とローザさんが早めにお休みできるように宿の準備をしてきますよ」
トリスタンは、そう言ってすぐさま街の中へと消えていった。
馬車でも、口の中がすっきりするというミント味の飴をくれたりと、あの人はとても気が利く。今はイケメン二人のせいで影が薄れているけど、まめそうだからたぶんもてると思う。
ライルも馬車で揺れた時は、変なところにはさわらないように気を付けて支えてくれたし、馬車の乗り降りに手を貸してくれた。
この顔に、この性格、そして見習い聖女の私に対しても『その服、とてもお似合いです』『実はローザさんとお話ししてみたかったので、それが叶って喜んでいるんですよ』とかむず痒くなるような社交辞令を言える口のうまさ。
耳元でそんな言葉を囁かれた私はただ呆れるばかりだったけど、この人がもてるのもわかる気がする。トリスタンといい、ライルといい、聖騎士を見て女の子が騒ぐわけだ。
だけど、いくら顔が良くても汗はやっぱり汗臭いぞ、女の子たちよ。




