06 見習い聖女の力
翌日の午前中、私たちは一週間前に私が治療した公爵家の長男ジャックの元へと足を運んでいた。
胃の腑がずっと痛いと訴えていたので、私が炎症と痛みの発生元を癒したのだけど、体内の治療は結構難しいのだ。
私のように未熟な見習い聖女は、ルル様みたいに広範囲の癒しができないので、まず痛む箇所を特定しなければいけない。だから触診が必須である。
見習い聖女にとってこれが一番厄介だった。
身体を触られることに抵抗があって嫌がる人もいるし、逆に過剰に触らせようとする者もいて、その加減が難しい。
今はルル様が相手を見て私に回してくるから問題が起こったことはないけど、中には意地悪な聖女様もいて本当に大変なのだ。
早く触診なしで癒せる力が欲しい。
正式な聖女にはほど遠い私の治療で、万が一治っていなかったらまずい。だから念のため確認に訪れた。
まだ痛みが残っているようだったら今度はルル様が癒すことになっている。
「あれからまったく痛みを感じません。ありがとうござました」
「それはよかったですね。ローザは炎症系の治療が得意ですのよ。まかせて正解でしたわ」
「ですが、胃の病気は繰り返すことが多いですから、ストレスをためないようにお気をつけください」
「あはは、それは難しいかもしれないな。ローザさんにずっとここにいて欲しいくらいだよ」
「それはローザ次第ですが……」
「ルル様? わたしがルル様のおそばを離れるとお思いですか」
「本人がこう申しておりますわね」
「それはとても残念だよ」
この国の男は女を口説かずにはいられないのか?
いや、私たちに甘言を吐く理由は知っているけどダンダリアの男はあからさますぎるし、私をターゲットにしているのだから単なるスケベに違いない。
そろそろ帰りましょうかとルル様がおっしゃった、その刹那、公爵家の応接室のドアがバンと大きな音をたてて勢いよく開く。
そこにはジャックの姉にあたるアマンダが立っていた。
「聖女様、いらっしゃっているのなら、私にお声をかけてくださらないなんてひどいわ」
「申し訳ありません、アマンダ様。本日は経過の確認だけにお伺いしましたので、すぐお暇するつもりでしたから」
「聖女様はこれから予定がございますの? もしお時間があれば私のお話きいてくれませんこと」
「――――そうですね。一時間ほどなら大丈夫ですよ」
ルル様は予定を頭の中で確認してからアマンダに返事をしたようだ。
私が知っている限り、ルル様は基本的に人の頼みを断らない。もちろん自分にできる範疇のことだけど。
「ジャックの用事はもう済んだのでしょ。貴方は出ていきなさいよ」
「酷い言いようだな姉上は。おふたりは僕のために来てくれたのに」
そう言いながらジャックはそそくさと部屋から立ち去った。ジャックの胃の痛みはこの姉の存在が大きいと思われる。