05 王太子から贈られたドレス
なんとか四人を追い払い、私たちは自分たちの部屋へと戻った。
こんなことが毎晩続いたのだ。
私はすべてが片付く明後日がとても待ち遠しかった。やっとゼ・ムルブへ帰ることができるのだから。
今回はあまりにも酷すぎる。愚痴ひとつ言わないけど、ルル様もそう思っているのではないだろうか。
なぜか癒しの力を授かる聖女はゼ・ムルブ聖国にしか産まれない。
そのため、ゼ・ムルブ聖国の聖女はどの国でも必要とされていた。
聖女の癒しは絶大だ。
ルル様ほどになれば自分の国に残留させたいと、いろいろな策、特に色仕掛けで足止めをしてくることが多い。
なぜなら、聖女は結婚することが許されていて、何年か前にダンダリア王国の貴族と結婚した聖女もいたからだ。聖女と言っても一概に聖教会に従順な者ばかりではない。
こうやって他国に赴き、丁重に扱われているうちに贅沢に酔ってしまう者もいる。
それを狙った王族や貴族が己の息子たちを聖女に近づけ、どうにか伴侶として選んでもらおうと躍起になっているのだ。
そう言っても、他国の男が聖女を娶るにはそれ相応の見返りが必要ではある。
それにルル様クラスはさすがに教皇様が手放さないと思うけど。
エラン王太子をはじめとした、貴族子息たちのしつこい誘いもそれが理由だ。しかし、王族や貴族にこれっぽっちも興味のないルル様が振り向くわけはなかった。
だからなのか、見習い聖女の私にまでちょっかいをかけてくる始末。
どちらにしてもあの男たちのやり方でルル様の心を繋ぎとめようと考えているのであれば、ダンダリアのやり方はあまりにも杜撰だとしか言いようがない。
「あら、とても素敵ね」
エラン王太子が置いていった私用のドレスを広げてみた。それを見たルル様の第一声だ。
エラン王太子に贈られたそれは、真っ赤なドレス。裾の方が紫がかっていてグラデーションになっている。そこに金糸で惜しみなく豪華な刺繍が施されたものだった。
「これ着なきゃダメですか? 肩の部分があきすぎです。見習い聖女が身につけるような物ではありませんよね」
「そう? そのドレスの色、ローザに似合いそうよ。女の子ですもの、たまには着飾るのもいいと思うわ」
「そうでしょうか……」
しかし、これはあきらかに私の体形を意識したデザインだ。
たしかに私は他の女性に比べたら胸が大きい。みんなと同じ修道服を着ているけど、上半身部分だけが窮屈なので胸のあたりがぱつんぱつん。だから、そこに視線が集まってしまうほど目立っていた。
騎士と阿呆なんて、視線はいつも顔と胸を往復しているから今さら言っても仕方ないのだが、あいつらはそんなに胸が見たいのか?
それに比べてルル様のドレスときたら……。
色はねずみ色。人気のない余った布で作ったのかと疑ってしまう。デザインはスカート部分にたくさんのフリル、腰の後ろにはバカでかいリボンがついていた。
これで色がピンクだったら完全にお子様用だ。
ルル様は小柄で見た目はひかえめな感じ。年齢がふたつ年下の私と一緒にいても、いつも反対に見られてしまう。
逆に私が十五歳にしては派手で大人っぽいと言われるから、どちらも年相応ではないので、並ぶと余計に子供っぽく見えてしまうのかもしれないが、それにしてもこのドレスはひどい。
ルル様と私は、このあり得ないドレスをお互い身につけて一緒に行動しなければいけないのだ。見習いの方が目立ってどうする。
だからと言って王太子から贈られたドレス以外で出席したら、角が立つかもしれない。それならいっそ修道服でもいいのではないのか? とも思うのだがこの国では夜会や晩餐会、舞踏会の類のドレスコードでは修道服はいけないそうなのだ。
明日の晩餐会はルル様が主賓のため、いままでのように断ることもできない。
もともと王家主催の舞踏会を企画されていたらしいけど、質素倹約をモットーとするルル様が本国を通してそう言った催しはすべてなくしてもらっていた。
せめて、同年代の王太子の誘いくらいは受けて欲しいと言うことで、ダンダリア王国の訴えをひとつだけ飲むことにしたそうだけど……。
「わたくしのドレスも可愛らしいわね。着るのが楽しみだわ」
本気か、ルル様?




