12 友達って・・・
「ローザたちは席を外してもらえるかしら」
「はい。私たちは外で待機していますので、終わったら声を掛けてくださいね」
ルル様を部屋に残して、私は聖騎士たちと一緒に廊下に出た。
これは決して珍しいことではなく、患者によってはアマンダじゃないけど、症状を人に知られたくないと言う場合があって、治療を施す聖女のルル様以外を厭う者がいるからだ。
ルル様の手にかかれば一瞬で終わるんだけど、治療の前に相手の話を親身に聞いたり、そのあとも感謝されたりで、人によっては結構時間がかかったりする。
「それでも私たちが移動するより、今回のやり方の方が効率はいいんだよね」
「さようですね」
聖騎士たちと世間話をしながら時間を潰していた私の目に、薄いピンク色のドレスを着た女の子が目に入った。
「あれはコーデリア様?」
コーデリアは私たちのいる廊下の先で、私に向かって手を振っていた。
「あれはこっちに来いって言っているんだよね?」
コーデリアがこちらに来ないのは、この部屋には治療する人しか近づけないように、ウォークガンの衛兵も警護しているからだ。
それでもコーデリアがこんなところまでやってこれるのは、ファーガス皇帝の姪だからだと思う。
私がここで十歳の少女を無視するのも大人げないし、ルル様だったら絶対そんなことはしないだろう。
私は聖騎士たちに断ってからコーデリアの元へと歩いて行った。
「私になにかご用ですか」
「今日から私が……」
コーデリアが口ごもる。そんなに言いにくいことだったら言わなくていいんですよ。どうせ碌なことじゃないでしょうから。
「貴方とお友達になってあげるわ」
「はい?」
コーデリアの友達と言うなら、ルル様の方が私よりも若く見えるから釣り合う気がする。それに貴族のことなんかこれっぽちもわからない私なんかより話が合うんじゃないの?
「ルル様の方が」
「聖女に粗相したら怖ろしいことが起こるってお婆様が言っていたわ。貴女はまだ聖女じゃないのでしょ」
ルル様を勧めようとする前にコーデリアが拒絶した。
たしかに私は聖女じゃないけど……それにしてもブリジットはそう思っていながら、ルル様にあんな態度だったの? 上流貴族って高慢ちきすぎて、自分のやっていることがおかしいって気づかないんだろうか。
「でもなんで?」
「なんでって……そんなことどうでもいいでしょ。今日からはお友達として、ずっと貴女のそばにいるから」
「私そんなに暇でもないんですよね。日中は治療がありますし」
「嘘でしょ。貴女は何もしていないって聞いてるわよ」
コーデリアの言葉に私は大きく心をえぐられた。
ちょっとは私も癒していますよ? それにルル様のそばで聖女が何たるものかを覚えていくのも修行のうちなんですけど?
それがちっとも身に着いてはいないのは自分でもわかっている。だから誰も突っ込まないでほしい……。
「それでも、見習いとして聖女様のそばで経験をつむ必要があるんです」
「そう……だったらお仕事中はしかたないわね。それ以外の時間は貴女とずっと一緒にいたいのよ。いい、これは親友からのお願いよ」
いつから私たちは親友になったんですか?
「だから、私とファーガス様のことも応援してくれるわよね」
ファーガス皇帝? もともとコーデリアとくっつけばいいと思っていたから、私としてはやぶさかではないんだけど、コーデリアはブリジットの孫だからな。どうしたもんか。
私が困っていると、
「貴女のそばにいればファーガス様とお会いする機会が増えると思うのよ」
ああ、そう言うこと。
別に私と仲良くなりたいわけではないんだ。
私がコーデリアに利用されるとしても、こっちにも利点はある。ファーガス皇帝とコーデリアの新しいうわさ話が大きくなれば、私のことなんてみんなの記憶から忘れ去られるだろうから。
「私は立場上何もできませんけど、コーデリア様は頑張ってください。応援はします」
私は私のために一肌脱ぐことに決めた。




