09 こっちも噂は聞いてます
「まさか貴女にまた会うなんて思いもしなかったわ。聖女ってお忙しいでしょうにねぇ」
「他にも聖女はたくさんおりますから、そうでもございませんのよ。わたくしはブリジット様にはお目にかかれて光栄ですわ」
「思ってもないことは、口にしないでちょうだい」
「そんなことはございませんのに」
この祖母にあの孫あり。
でも祖母の方は、少しつり目できつめな雰囲気。言葉まできついから、どこからどう見ても嫌な人としか思えない。
血筋だけあってコーデリアとは容姿が似ているので、あの子の性格が改善されないまま高飛車で育ってしまったら、この祖母のように見た目もきつくなってしまうのだろうか。
そう考えると、私に品がないのは心の中で暴言吐いているのが表にも出てしまっているからかもしれない。
一瞬そう思ったけどヴィクトリアみたいな人間もいるんだから、別に気にする必要はないのかもと、自分に都合よく思い直した。
実はこのブリジット、今回治療する貴族のリストには載っていない。
「お友達の都合が悪くなったので、あたくしが代わりに来ただけよ」
そんな言い訳をしているけど、ここに来るまでずっとリストに載っている人の名前を騙っていたし、顔もつばの大きな帽子で隠していた。
ルル様がブリジットのことを知っていたからわかったけど、私だけだったら人が入れ替わっていても気づかなかったはずだ。
まあ、ルル様に会いに来るのが目的だったんだろうから、ばれることは重々承知の上でだろうけど。
「そちらの見習いは虚言だったようね。まさか貴女もファーガスの血迷いごとを真に受けているんじゃないでしょうね」
虚言って、まるで私がうわさを流したみたいに言わないでほしい。
「ローザのことは本人も困っていますのよ。これからは勘違いされることがないように、十分気をつけさせますわ。それはわたくしもです」
「だったらいいのよ。貴女たちは兄妹なんですからね。本当にファーガスは何てことを考えているのかしら。いくらなんでも気持ちが悪すぎるでしょう。あんな者が国を動かしているかと思うと心配を通り越して絶望しかないわよ。せめて王妃はきちんとした者でないと務まらないから、コーデリアくらしかいないじゃないの」
ルル様から、この人が息子のマルセルのことを皇帝にしたがっていたと聞いている。
だから今でもファーガス皇帝のことを嫌っているのかもしれないけど、その気持ち悪いと思っているファーガス皇帝に孫のコーデリアが嫁ぐことは平気なのだろうか?
いやそれより、兄妹って? まさかルル様とファーガス皇帝がそうだってこと?
ウォークガン帝国、謎だらけすぎて私はついていけそうにない。
「それで痛む場所はどちらでしょうか」
「左肩よ。腕が真っ直ぐ上がらなくなったわ」
それは四十肩か五十肩だ。
突然やって来て嫌味をまき散らすブリジットにも、ルル様はいつも通り聖女の癒しを施した。
「いかがですか」
「問題ないようね。これが聖女の力……忌々しいけれど貴女はマルセルの妹でもあったんだから、あの子の味方をしてくれても良かったんじゃないかしら」
「わたくしは誰にでも分け隔てなく接していたつもりです」
「あたくしが何を言っても聞く耳を持つつもりはないようね。ですけど、貴方とファーガスについて反対している者はあたくしだけではなくってよ。貴女もロイヤルヴァイオレットではなくなってしまったようだけれど、今更皇帝陛下の娘ではなかったなんて都合のいいことを言わないようにね」
お礼ではなく、捨て台詞を吐いてブリジットは再び帽子で顔を隠して部屋から出て行った。
やっぱりルル様は先代の皇帝の子ども?
事務管理官がルル様に変わってしまったと言ったのは瞳の色だったんだ。
ルル様の生い立ちは聞いたことがなかったけどまさかウォークガン帝国のお姫様だったなんて。
「違います」
「え?」
あれ? もしかして私、ルル様に心を読まれてる?
「声に出ていましたよ。それよりも、私にはウォークガン帝国先代皇帝陛下の血は流れていませんから、誰かがそう言ったとしてもローザは気にしないでね」
ルル様がそう言うのだから、ブリジットが勘違いをしているだけで、ロイヤルヴァイオレットではなかったんだと思う。




