07 コーデリア
「ファーガス様はあなたのどこがよかったのかしら。男性を誘うようなそんな恰好をしているからなの? 見ているこちらの方が恥ずかしくなるのだけれど」
そう言いながら私に値踏みするような視線を向けたのは十歳くらいのお嬢様。とても可愛らしい容姿とはうらはらにその口からでた言葉は辛辣なものだ。
いまはもうパツンパツンの修道服ではない。
ちゃんとサイズに合わせたものを身に着けているんだけど、それでも胸が目立ってしまっているので、そのことを言っているのだと思う。
この口の悪い小さな令嬢はいったい何者?
「コーデリア様ではございませんか。お久しぶりでございます」
ルル様が名前を呼んだということは、知っている人物のようだ。そんなルル様をまたも嫌な目つきで見つめるコーデリアと呼ばれた令嬢。
「誰よ? あなたなんか知らないわ」
「以前お会いした時は、コーデリア様がお小さい頃でしたから」
コーデリアはファーガス皇帝の姪にあたるそうだ。よく見ればその瞳は紫キャベツのような色をしていた。
この子もロイヤルヴァイオレットなんだろうか。
「そんなことよりあなた! ファーガス様の気まぐれでお手がついたからっていい気にならないことね」
ルル様を無視して、私の方へびしっと指をさすコーデリア。
面倒くさいのに絡まれたな。それもこんな子どもにまで勘違いされているなんて、誰がそんなこと教えたんだ。
とりあえず否定しなければ。
「ファーガス皇帝陛下と私は何の関係もございません。ですからご安心ください」
「そうなの? でもみんなが言っているわよ」
「勘違いしているだけです。ファーガス皇帝陛下が私なんかを相手にするわけないですよ」
「そう? そうよね。わたしもおかしいと思ったのよ」
そう言いながらコーデリアは初めて笑顔を見せた。どうやらファーガス皇帝のことが好きらしい。
この様子だと、コーデリア以外にもファーガス皇帝を狙っている令嬢から敵視されている可能性がある。
私は王城中を『ファーガス皇帝とは無関係です』と大声で触れて回りたくなった。でも、そんなことをしたら、さすがにルル様が止めるだろうけど。
「コーデリア、急に姿が見えなくなったと思ったらこんなところで何を騒いでおる」
「あらお父様。うわさになっているファーガス様のお話は嘘なんですって。この者が白状したわよ」
やってきたのはコーデリアの父親らしい。
その姿は娘のコーデリアと似ているところがまったくなかった。
カエル、または魚類のようなかなり特徴がある見た目をしている。それにコーデリアが紫キャベツ色の瞳をしているのにたいして、父親はコーラルピンクだ。
「ルル様か!?」
ルル様に気づいたコーデリアの父親が驚愕の声を出して叫んだ。
「お久しぶりです。マルセル様」
「ああ、そうですな。貴女がいらっしゃっていたとは――行くぞコーデリア」
「どうしたのお父様?」
「いいから早く来い」
コーデリアの父親マルセルは、娘の腕を掴んで無理やり引っ張っていった。
とても慌てている様子だったけど、ルル様に怯えているというわけでもなさそうだ。
「あの方はファーガス皇帝の兄弟なんですよね? 瞳が珊瑚色、しかも茶色よりでしたから、継承権がなかった方なんですか」
「そういうことになるわね。それでもあの方のお母様はマルセル様を皇帝の座につかせたがっていたのよ。今度はコーデリア様を王妃にしようとしているのかもしれないわ」
「コーデリア様もファーガス皇帝を慕っているようでしたからね」
もしマルセルがもともとはコーデリアと同じ紫キャベツ色だったのに珊瑚色に変わってしまったとしたら、ルル様の手によってロイヤルヴァイオレットから外されたということになる。
そうだとしたら、本人、もしくは身内がファーガス皇帝の命を狙ったのかもしれない。
でも、普通に王城内を闊歩していることを考えると違うんだろうか。
ルル様も拒否しているようだし、私も勘違いされて迷惑している。コーデリアに問題さえなければファーガス皇帝が彼女を選ぶことですべて丸く収まるんじゃないの?
コーデリアは性格にちょっと難ありだけど、素直になれば可愛いところもあるかもしれない。
私は陰ながら応援することにしよう。




