03 ファーガス皇帝
「ファーガス皇帝陛下って、皇帝やってるくらいなんだから、やっぱりすごい人なんですよね?」
私が言った『すごい』にはいろんな意味がこめられている。
「すごい……のだと思うわ」
こんな歯切れの悪いルル様は珍しい。と言うより、ファーガス皇帝とのやり取りからして、いつも冷静なルル様がおかしかった。
気にはなるけど、ルル様に聞く勇気はない。だってまた『知らなければ良かった』のオンパレードになりそうだから。
「ファーガス皇帝陛下とは付き合いが長いのよ。むかしのわたくしを知っているからやりにくいわ」
優しいけど、他人とは距離を置いているルル様が、微かとはいえ感情を出して話していたので、そうだろうと思っていた。
それに事実と異なっていたとしても、ファーガス皇帝が自分で元カレだっていうくらいだし。
「先代の皇帝陛下には側妃がたくさんいたの」
「はい?」
突然、先代の話を持ち出されても、私には話の繋がりがまったくわかりません。
「ごめんなさいね。ファーガス皇帝陛下のことを聞いてもらってもいいかしら。わたくしに対する言動については頭がどうかしていると思うんだけど、あれでもちゃんとした施政者なの。普段はまともな方なのよ」
ルル様がファーガス皇帝を貶めておきながら庇ってる?
でもそれは、そんなことを言えるだけファーガス皇帝とは本当に親しい間柄なんだと思う。だって、本当に嫌悪している人たちに対しては、一貫して丁寧な言動と対応をしているから。
「それはかまいませんけど、私が聞いちゃってもいい話なんですかね?」
「それは大丈夫よ。公然の秘密だから、知っている人が多いもの」
「そうなんですか」
先代の皇帝、すなわちファーガス皇帝の父親だけど、側妃も多ければその子ども多かったらしい。
ただ、ウォークガン帝国で次期皇帝の継承権がある者は、王妃の子どもと決まっていて、それは一人息子のファーガス、その人しかいなかったそうだ。
「王妃に子どもがいなければ側妃の子どもたちにも権利が発生するのよ。だからファーガス皇帝陛下は産まれながらにして命を狙われていたの」
「どこの国も、陰謀ばかりなんですね」
小さく頷いたルル様。
「幼いころに、暗殺を恐れた王妃様の願いによってファーガス様はゼ・ムルブ聖国で保護することになったの」
「だから、教皇様と旧知の仲なんですね」
「そうよ。幼馴染みたいなものかしらね。だからお二人はとても仲がいいわ」
個人的なことと言いながら、教皇様が絡んでいるのはそういう理由があるからなのか。
「あれ、でもそうなると、ファーガス皇帝には神罰がくだってないってことですか?」
「もちろんよ。勘違いしていると困るから、ローザにはきちんと話しておいた方がよさそうね」
そう言ってルル様はファーガス皇帝との出来事を話し始めた。
今回も『聖女の癒し』の仕事とは別に何かが起こりそうな予感がする。だけどそれは、私の思い過ごしであってほしいと願わずにはいられなかった。




