02 爆弾発言は心臓に悪い
「お久しぶりです。ファーガス皇帝陛下」
「やっと来たなルル。儂がどれだけ待ち焦がれていたかわかるか」
「陛下には、そんなことを考えるお暇もございませんでしょうに」
「相変わらず手厳しいなルルは」
ウォークガン帝国の大広間。
ルル様とそこから何段か上がった壇上の豪勢な椅子に着座しているファーガス皇帝陛下とのやりとりに、私は目を丸くしていた。
昔ウォークガン帝国で何かがあったことは聞いたけど、そのせいなのか、ふたりの間に何とも言えない空気が漂っていたからだ。
親しみを込めてルル様に話しかけるファーガス皇帝。それにたいしてルル様は普段ならあり得ないほど刺々しい。いつだって誰にでもお優しいルル様がどうして?
ファーガス皇帝、まさか神罰をくだされても改心しなかった阿呆なのか。
そんな失礼なことを考えていると、ファーガス皇帝と目が合ってしまった。
「そちらの聖女は何も聞いていないようだな。儂はルルの元カレだ」
「ルル様の元カレ!?」
元カレって、元彼氏の略だよね。皇帝が元カレ? ルル様の? 嘘でしょう? あまりのことに私は叫びだしそうになる。
「嘘ですから」
私のとなりで、ルル様がさらっと否定した。
そうか、嘘なのか。って、私が動揺することもないんだけど。本当に驚いてしまった。
「照れなくても良いではないか」
「お戯れはほどほどになさってください」
元カレではないんだろうけど、二人の間には何かがあったんだろう。
ファーガス皇帝は三十歳前後だ。体格が良く威厳があるのに、ルル様にたいしては目を細めていて、そこには底知れないほどの優しさを感じる。
「こちらは見習い聖女のローザです。わたくしと一緒に帝都内を回らせていただきます」
ファーガス皇帝が爆弾発言をしたため、私は間違って聖女と呼ばれたのに、訂正すらできなかった。
「よろしくお願いいたします」
「ルルの弟子なら腕もたつのであろう。頼もしいことだ」
私なんてルル様の足元にも及ばないから、あまり期待されると困る。それにしても、ファーガス皇帝のルル様への信頼は凄い。
いいことなんだろうけど……この人西側を掌握している皇帝だよね。
今まで、これほどルル様に傾倒している王族なんて見たことがないから、ある意味怖さを感じる。
「今回ルルが帝国まで足を運んでくれたということは、色よい返事をもらえると思っていいのだろうな。教皇に催促したかいがあったというものだ」
「わたくしのことで、教皇様に連絡をなさるのはおやめください」
「やつとは旧知の仲だ。構わないだろう」
「ファーガス皇帝陛下とご一緒で、教皇様もお忙しいのです。こんなことでお手を煩わせたくはございません」
「だったら、ルルが一言『はい』と言えば良いことだ。いい加減嫁に来い」
「はあ!?」
あ、やばい。声に出てしまった。
「申し訳ございませんが、そのことは二人きりの時にお願いします」
「二人きりか、いい響きだ。それでは、そこの見習い聖女、部屋へ案内させるからそこで待っておれ」
ファーガス皇帝はルル様を置いて、私だけ退出しろと言っている。
どうしたらいいのかわからず私がオロオロしだすとルル様が私の左手の上に自分の右手を置いた。
冷静になれと言うことだろう。
「その件は、後ほどきちんとお話させていただきますので、本日はご容赦ください」
「うむ――焦らされるのは嫌いではない。二人きりになれるのを心待ちにしておるからな」
「それでは御前失礼いたします」
そう言ったルル様と一緒に私は大広間をあとにした。
あまりのことで、私の手と足は同時に出てしまっているけど、今日はルル様ですら突っ込む余裕はなかったようだ。




