11 ヴィクトリア
「サミエル王太子殿下、もうひとりお客様がいらっしゃるので、こちらでそのままお待ちください」
白い猫をテーブルに乗せたあと、ルル様はいったん部屋から外へと出る。
「まだ誰か来るのですか?」
そんな話を聞いていなかった私がルル様に尋ねると、ヴィクトリアがやってくると言う。
心配していたであろうサミエル王太子とクロエの件が、解決したことを報告するようだ。
クロエの本心を聞いたサミエル王太子も、さすがに目が覚めただろうから、ふたりは元の鞘に収まることができるだろう。
「ローザはここで待っていて。わたくしは着替えてくるから」
ルル様はそう言ったかと思うと、向かい側の個室へ入ってしまった。そして……。
「お待たせしてごめんなさいね。今回のこと、ローザも最後まで見届けたいかしら」
「は!? 誰!? って言うか……もしかしてルル様ですか?」
そこには『うふふ』と笑うクロエがいたのだ。驚くなと言う方が無理だと思う。
「なんで、ルル様がクロエに変身しているんですか」
「サミエル王太子殿下に、もう少し現実を教えて差し上げようと思って」
「現実?」
「ローザはそのままではヴィクトリア様のところに行けないわよ。ここで待っている?」
「いいえ。ルル様はさっき、最後まで見届けたいかって聞きましたよね? 私の答えはもちろんイエスですよ」
「そう、だったら一緒にいきましょうか」
そう言ったルル様は、クロエと話していた部屋に戻ってから白い猫を抱いた。そして今度は別の部屋へと移動する。
その間、誰とも会うことがなかったので、事前にルル様が人払いをしていたのだと思うけど、いったい何をしようとしているんだろう。
「待たせたわね」
「クロエ? なんで貴女が!?」
「誰かのせいで、ゼ・ムルブ聖国に戻されることになったから、わざわざお礼に来てやったのよ」
『ルル様クロエ』はヴィクトリアが待っていた部屋に入ると、悔しそうな態度でそう挨拶をした。
その姿を見たヴィクトリアは笑みを浮かべる。
「あらまあ、残念なこと。もっと貴女で遊べると思ったのに」
「「にゃっ?」」
左側の広角だけを上げ、いやらしく笑うヴィクトリア。
これがヴィクトリア? この前、公爵家であったおとなしい令嬢とは、口調も顔つきもまったく違う。本当に同じヴィクトリアなんだよね?
あ、私ローザはまたしても猫です。ちなみに本日は黒猫でございます。ってそんなことはおいといて。
「わたしがいなくなったとしても、サミエル様は貴女のことなんて愛さないわよ」
『ルル様クロエ』はクロエの口調を真似てヴィクトリアに強い調子で言った。
「何言っちゃってるのかしら? あたくしはねぇ、サミエルの愛なんてこれっぽっちも必要としてないの。欲しいのは王妃の座。そして権力。サミエルって貴女みたいな女に引っ掛かるほど単純でしょ。だーかーらー、あたくしがこの国を手に入れるのもそれほど難しくはないのよ」
「陰で操るつもりなの」
「だってぇ、あんな頼りなくて周りが見えてない男より、あたくしの方が良い国をつくれそうじゃない。貴女のおかげで、罪悪感と恩も売れたし、今まで以上にいいなりにできるわ。いい仕事をしてくれた貴女には感謝してあげてもよろしくってよ」
「「にゃっ?」」
何? 何が起きているの? この人本当にあのヴィクトリアなの?
「すべて貴女の掌の上だったってこと? わたしを煽ってサミエル様を堕とさせたことも?」
「そうよぅ。天罰? 神罰? まあどっちでもいいけど、そんなものがくだった王太子を許して支えるあたくし。国民の瞳には健気に映るでしょうね。ああ、とても楽しみだわぁ」
「なんて人なの」
「対抗心だけでサミエルに近づいた貴女には言われたくないわね」
「うっ。でも、そんな簡単にいくわけないじゃないの」
「心配していただかなくても大丈夫よ。動いているのは私だけではないんですもの」
「それってどういう意味よ」
もしかして黒幕がいるの?『ルル様クロエ』と同じく私もそれは気になる。
白猫のオッドアイもヴィクトリアに釘付けだから、きっと同じように思っていることだろう。




