09 王太子の気持ち
「今日はクロエとのことで話があるとか」
「ええ、サミエル王太子殿下に、折り入ってお伝えしなければならないことがございます」
ゲイルとクロエの婚約は正式に破棄された。あとはヴィクトリアと自分の婚約破棄を待つばかりのサミエル王太子のもとへ、私はルル様と二人でやって来ていた。
「今日はふたりなんだな?」
「こちらは見習い聖女のローザです」
「よろしくお願い致します」
「うむ。ローザとやら、私とどこかで会ったことはないか」
「ございませんが?」
「そうか? なぜかわからないがそなたから目が離せないんだが――クロエといい、聖女とはそういうものかもしれないな。詮無きことを言ってすまぬ」
「いいえ」
私、どこかに猫っぽさが残ってるの?
その後私たちはサミエル王太子と向かい合い、とりあえず出されたお茶に口をつける。
「聖女様の話とは、私とクロエの件だろう」
「いいえ、わたくしはクロエがゼ・ムルブ聖国に送還されることが決まったことをお伝えに参りました」
「な、なぜだ!? そんなこと誰が許した。ゲイルが聖女を娶ることが決まった時に、ケルパスからそちらには大金が支払われているはずだぞ」
クロエの話を聞いたサミエル王太子が激高して立ち上がる。
「この件は、国同士ですでに話がついておりますので」
それに冷静な態度で返事をするルル様。
「父上が許可を出したと言うのか?」
「そうです。サミエル王太子殿下はクロエとどうするおつもりだったのでしょう。殿下の行動を皆様が憂いていたことをご存じありませんでしたか」
「ヴィクトリアと正式に婚約を破棄してから、クロエを婚約者として迎えるつもりだったのだ。クロエは元聖女で、私の相手として不足はないはずだからな」
「それでも、クロエの件はすでに決定したことです」
今回の醜聞のせいで、聖女の名も貶めることになってしまう。本国は怒り心頭だろう。
「そんなこと私が許さない。私は絶対にクロエを手放す気はないぞ」
自分がクロエの能力で魅了されてしまっているとも知らずに、力強く宣言するサミエル王太子がちょっと可哀そうになった。
「そこまでおっしゃるのでしたら、ご自分の目でクロエの本心をご確認いただければよろしいかと」
「クロエの本心だと?」
「ええ、是非そうしてくださいませ」
「私は何があってもクロエを信じている。どんなことがあっても、この気持ちが揺るぐことはない」
「そこまで自信がおありなら、お手数ですが教会までお越しいただけないでしょうか。もし、本当のクロエを知って、それでもサミエル王太子殿下のお気持ちが変わらないと言うのでしたら、この件はわたくしが本国に掛け合って、クロエがこちらに残れるようにいたしますわ」
「それは本当か!? ならばクロエのためにもそなたの提案を飲むことにしよう」
サミエル王太子と約束を取り付けたルル様と私は王宮を後にする。
ルル様が何をするのかはわからないけど、これでサミエル王太子の目が覚めるといいのだけど。




