07 元聖女の能力
「ルルさんでしたっけ? わたしたち初めましてかしら」
「ええ、わたくしは本国の聖都に、ほとんどいたことがありませんから、クロエ様とはお会いしたことはないと思います。以後お見知りおきを」
聖女と元聖女の対面を、私はルル様のとなりに座って見つめている。姿は猫のまま。
王宮で、サミエル王太子が応接室を用意してくれて、クロエの願いでその部屋には私たちだけだ。
だから、ここには聖女と元聖女、そして猫一匹。
現時点で聖女であるルル様のほうが身分としては上なのに、上から目線のクロエにたいして、ルル様はいつも通り丁寧な対応をしている。
どちらが先輩にあたるのかわからないから、クロエを敬うのは仕方ないのかもしれないけど、サミエル王太子とのイチャイチャを見ちゃったあとだし、私はなんだかモヤモヤしていた。
「ルルさんはわたしとサミエル王太子の話は聞いている? そのことで貴女に相談したいことがあるんだけど」
「一応お話は伺っています。内容によって、わたくしにできることがあれば、お力になることはやぶさかではございません」
「本当に? ありがとう!」
そう言ったかと思うとクロエは立ち上がりルル様にいきなり抱き着いた。
「わたしも始めはいけないことだと思っていたのよ。だけど気持ちは止められないじゃない? ゲイル様よりサミエル様が好きなんだからしかたないわよね」
クロエはルル様に同意を求めているようだ。私もルル様がどう対応するのかがとても気になってじっと見てしまう。
「クロエ様には申し訳ございませんが、内容によってと申し上げた通り、誰かが傷つくことには賛同できかねます」
笑顔だったクロエが一瞬真顔になってから、ルル様に抱き着いていた手を離した。
「なんで? ――――誰かが傷つくことなんてないわ。わたしと婚約していたゲイル様はたぶん聖女の能力が欲しいだけだし。わたしのことなんて好きではないと思うの」
「それでは、ヴィクトリア様のことはどう考えていらっしゃるのですか」
「ヴィクトリア? あんな女のことなんて知らないわよ。ねえ、お願い。わたしの味方になってよ。わたしはサミエル様のことが本当に好きなの。サミエル様が好きなのもわたしなんだから」
クロエはルル様の手を取って再び懇願し始めた。
「味方にはなれません」
ルル様の言葉に、それまでしおらしい態度でお願いしていたクロエの表情が変わった。鬼の形相と言う奴だ。怖っ。
「なれませんじゃないわよ。なんなのよ貴女!?」
クロエはその場に立ち上がって急に怒り出した。ルル様が思い通りにならないからって、自分勝手すぎるんじゃないだろうか。
そんなクロエをルル様は見上げる。
「クロエ様のお言葉は、良い返事をしないわたくしにたいしてでしょうか。それともわたくしを意のままに操れないことにでしょうか」
「なっ」
「にゃっ」
ルル様を意のままに操るってどういうこと?
「申し訳ありませんが、わたくしには効きませんよ」
「嘘よ」
「嘘ではありません。クロエ様のこと、本国にも報告をさせていただくことになりますので」
クロエは自分の口に両手を当てて驚いている。
「貴女の力は教皇様によって剥奪されると思います。ご自分のやったことを深く反省してください」
「そんな」
ルル様の言葉をそのまま受け取れば、クロエには人を操る能力があるということだろう。ルル様の能力にも私はついていけてないのに、新たな能力者?
聖女怖っ。
そう言う私も一応見習いだけど聖女だ……。
そしてそれを見破ったルル様、やっぱり凄すぎる。
それに聖女の力が教皇様によって剥奪できるなんて。また私は知らなくてもいいことを知ってしまった。