04 王太子好みの猫
「こんな狭いところに押し込んでごめんなさいね」
「にゃーん」
キャリーバッグに入っている私に、ルル様が謝って来たけど、このフィット感が何だか心地いい。身体が猫だからだろうか、なぜか狭い場所は安心できる。
私が猫に変身した時は一瞬だった。
気がついたら身体が小さくなっていて、全身モフモフだったので、自分の身体を隅から隅まで確認してしまい、猫らしくない格好とかしていたためにルル様に笑われた。
始めは四足で歩くのは変な感じだったけど、今は慣れたからトコトコ歩くだけなら問題がない。
だけど、王宮の中を、さすがに一匹で歩いたり、ルル様が猫を抱いたままの移動はまずい。しかたなく私はキャリーバッグに入ってルル様の手で運ばれていた。
今回、表向きは他国へ移動中のルル様が、通りがかりで民を癒すためケルパス王国の教会に滞在していることになっている。
ちょうどライリー公爵の体調が優れず、教会に治療で訪れて顔見知りになった。そしてその時に猫のことを知ったと言う筋書きだ。
ルル様のことを知った王から、聖女が自国に来訪しているのであれば、是非挨拶がしたいと申し出があり、王族に教会に足を運ばせるのも何なので、ルル様の方から訪ねていくことにしたようだ。
王太子からも個人的に面談したいと連絡があった。内容は民に敬われている聖女と話がしてみたい。そんな感じだったけど、手紙には遠回しに猫が見たいと書いてあった。そこはヴィクトリアが上手くやったんだと思う。
そんなに猫が好きなのか? まあ、確かにこのモフモフには癒されるけども。
とりあえずその希望を叶えるために、私は今日も猫の姿になったのだった。
大広間で王と王妃に挨拶をしたあと、サミエル王太子にさっそく別室に連れていかれたルル様。
サミエル王太子は私の入っているキャリーバッグが気になって仕方がないようだ。外側から私の姿はそれほど見えないはずだけど、ちょこちょこ視線がこちらに向いていた。
人にはわからないように隠しているつもりだっただろうけど、見られている私にはもろにばれている。
部屋でキャリーバッグから出された私は、おとなしくルル様の膝の上に乗った。
その姿は白色の長毛でもちろんモフモフ。瞳が緑色と黄金色のオッドアイだ。見た目だけでも珍しいが、私はルル様の言うことなら完璧にこなせるから、芸だってお手の物。
そんな私に猫好きの王太子が釘付けになるのも時間の問題だった。
「にゃあ~ん」
ときより会話に合わせて返事をして見せて、有能さをアピールする。そんなこともあって、ルル様たちの話も結局は猫一色。
「お譲りすることはできませんが、一晩だけならお貸しいたしましょうか」
「本当か?」
「ええ、ですがこの子、『ミミ』は抱っこが嫌いですので、絶対に抱き上げないで好きなようにさせてくださいね」
「ああ、約束する。私も猫が嫌がることはしたくないのでな」
結局たいした話もないようなので、ルル様は三十分ほど話をしたあとで、予定通り私を置いて帰るようだ。
私にとってはここからが本番。ルル様のためにも情報収集を頑張ろう。
でも、私を見つめるサミエル王太子の目がちょっと怖い。