02 自称、ルル様のご友人たち
馬車が私たちの寝泊まりしている高級宿へ到着した。
普段は滞在場所として教会や修道院があればそこに宿泊するんだけど、ダンダリア王国には聖女を受け入れられるような大きな教会が存在しなかった。そのため、ダンダリア王国のご好意で私たちは高級宿の最上階を貸し切って過ごしている。
その建物のエントランス前には、今日も豪華な馬車が何台も停車していた。
「今日も来てますね、あいつら」
「ローザ、あいつらなんて言ったら失礼よ」
「いくら私でも本人たちの前では言いません」
「それでもダメよ。気をつけなさいね」
「はーい」
「お客様のご友人の方々が奥でお待ちでございます」
重厚な扉を通り抜けるとすぐに宿の従業員に声をかけられた。そして案内されたのはロビーのすぐそばに設置されている個室だ。
その自称『ご友人』たちに、ルル様が会わないという選択権はないらしく、否応なしに待っている部屋へと連れていかれた。相手はわかっている。それでも念のため、聖騎士の二人も一緒だ。
部屋の中には四人の男がルル様を待っていた。私は思わず眉間にしわが寄ってしまう。
「えらく遅い帰りだな」
最初に口を開いたのは、一番奥の席に座っているダンダリア王国のエラン王太子だ。腕と足を組みながら尊大な態度でルル様を迎える。
「皆様お揃いで、わたくしに何か御用でしょうか」
「いやですねぇ、昨日『明日こそディナーは我々とご一緒に』と約束したではないですか」
侯爵家の跡取り、リコードが自分の顎に手をあてながら笑顔をつくる。
「俺がお守りすると何度も言っているのに、今日もそんな奴らを引き連れているのか。貴女は自分の身に何かあっても構わないらしいな」
ゼ・ムルブの聖騎士二人に向かって斜に構え、見下しながら言葉を吐いたのは、ダンダリア王国騎士団長を目指しているというエラン王太子の乳兄弟ニクソン。
そんな態度をされているゼ・ムルブの聖騎士の二人は、静かに成り行きを見守っている。ダンダリアの王太子をはじめとした上流貴族の子息に手荒なことはできないし、この国に来てから、これがほぼ毎日のことだからだ。
「ローザちゃん、僕たちはみんなの邪魔にならないように別の場所でご飯食べようよ」
はあ? 声の主に向かってギンッと音が出るくらいの睨みを聞かせる私。そんな視線もお構いなしの伯爵家の阿呆息子モールス。
こいつだけは立ち上がり、私の方に向かって手を振った。
「何を言っている。ローザも我々と一緒に決まっているだろう。見習いといえども、そやつも粗末に扱うわけにはいかないのだ」
未熟だけど私にも癒しの力があるので、ゼ・ムルブ聖国からの賓客扱いにはなっている……はず。
だとしたらエラン王太子の今の言葉は口に出すこと自体が失礼にあたらないだろうか?
「確かにローザさんは、聖女様とは違ってマナーがなっていないので、我々と食事をするのは気が重いでしょうけどね。別々というわけにもいきませんよ」
ダンダリアに来た頃、仕方なく何度か食事をしたことがあった。最低限のマナーは守ったつもりだけど、完璧には程遠い。それは自覚しているけど、リコードはいつまでもねちねちとうるさい。
「おまえではローザ嬢を守れないだろう。任せることはできない」
いや、ニクソンにも、守ってもらうつもりはこれっぽちもないから。