17 ルル様の能力
アマンダたちの件、本当に天罰なのだろうか。ジャックから話を聞いてからそのことが頭から離れない。
私は意を決してルル様に質問することにした。
「そうね、ローザが本当のことを知りたいと言うのであれば、わたくしは構わないわよ」
ルル様が私に話してくれた真実は、ご自身のとてつもない能力についてだった。
「わたくしの能力は根本的に他の聖女の皆さんとは違うのよ」
「欠損部分の治癒がですか」
「わたくしは身体を治しているわけではないの。身体をいじっているのよ。それには一度身体にふれて願いを埋め込む必要があるのだけど」
「いじる……ですか?」
「簡単に言うと、人体改造。人の身体を思いのままに改造できる能力なのよ」
「改造? すみません。私が不勉強なせいで、お話を聞いただけではよくわかりません」
「身体の部分はすべて付け替え自由なの。治療の場合は傷んだところをすべて新調しているわ。例えば、失明してしまった眼球の場合だけど、新品と取り換えてしまえば元通りになるのよ」
「そんなことができるのですか」
「ええ。現在はわたくししか使えない能力ですけど、歴史上には何人かいたそうよ」
「そうなんですね」
私がルル様を目標としても、人の治癒能力に働きかけて治している私の癒しとは、まったく異なる能力みたいなので、残念だが辿り着けそうにない。
「それでね、わたくし、あの時ダンダリア王国の方々に神のご加護を祈ったでしょ。あれはあの国で皆さんによくしてもらったお礼に、ひとりひとり望みの姿に変えてあげるためだったの」
「エラン王太子たちをですか?」
「そうよ。エラン王太子殿下は鼻が高いことがご自慢のようでしたけど、実際はそれほどでもなかったから、もっと高くなればお喜びになるかと思ってそうしてあげたわ」
鼻を高くしたとは? 私はルル様の言葉を理解することができないでいた。
「侯爵家のリコードもですか?」
「あの方、ご自分の知識に自信があったようなの。だけど間違っていることが多かったから、もっと知識を吸収できるように脳の量を倍にして差し上げたわ。もちろん、それでは頭蓋骨に入りきらないから、後頭部全体が二倍ってことなのだけど」
それを聞いて私は唖然とした。
ルル様がいま話している内容は、ルル様の真剣な態度を見て、嘘でも比喩でもなく事実なんだと分かったからだ。
鼻が伸びたエラン王太子と、頭がバカでかくなったリコード。うわあ、想像しただけで気持ちが悪い。
「他の方もですよね?」
「騎士様は剣聖になりたいとおっしゃっていたから、剣がもっと持てるように両脇から一本づつ腕を増やしてあげたし、ローザを付け回していた子息はローザの犬になりたいって言っていたから、今は犬の耳と尻尾が生えているわね」
ルル様の能力すごすぎる。
そしてえぐい。
「あとは、アマンダ様。私はお友達だと思っていたから一番頑張ったわ。アマンダ様は公爵家を継ぎたいとおっしゃっていたでしょう。ダンダリア王国は法律で男子でなければ継承できないのよ。だから股間に……」
ルル様の驚くべき発言を聞いて、思わず悲鳴がでそうになった私は、その口をあわてて両手で塞いだ。
それを見て、ルル様は首を傾げる。
「ああ、ごめんなさいね。言葉を選ぶべきだったわ」
それ以降の言葉を私に伝えるのはやめたようだ。
たしかに誰にも言えない症状だ。
ルル様は本当に、いま自分で話した内容を親切だと思っているのだろうか。仕返しなのではなく?
怖ろしすぎて真実を追求することが私にはできなかった。
それでも、あの時を振り返れば、すべては用意周到に仕組まれていたことだと思ってしまう。
エラン王太子主催の最終日の夜会だけ、あんなドレスを着てまで出席したことも、いま思えばルル様らしくなくて不思議だった。
私や護衛騎士の行動を最初から制限していたことも、ルル様があの五人にふれるためだったと思うし。
夜会の後すぐに旅立つ準備をしていたこともそうだ。
これはきっとルル様なりの復讐だったに違いない。
そう思わなければあまりにも怖すぎる。
そうでなければ、これからルル様の前では下手に言い回しを使うことができなくなってしまう。
言葉の綾で身体を改造されてしまうなんて、恐怖で口を開くこともできなくなってしまうだろう。
「今後もし、万が一ルル様が私を癒してくださる時がきたら、必ず事前に言ってくださいね。彼らのようなサプライズは私は嫌ですよ。絶対ですからね」
「ええ、わかったわ」
とりあえずルル様から言質をとったのでひとまず安心だ。
そう言えば、身体の改造ができるとしたら、ルル様は絶世の美女にだって自分でなれるってことだ。いつも容姿を蔑まれているのにそれをしないルル様はご自身の姿が好きなのだろう。
ダンダリアでは他に何人もの貴族と関わったけど、罰を与えられた五人に共通するのはみんなルル様の容姿を貶していたということだ。夜会の夜もそうだった。
たぶん、あれで最終判断をくだしたのだろう。
あの日彼らが快く送り出してくれていたら、そんなことにはならなかったのかもしれないのに。
この時私は『決してルル様の逆鱗にはふれない』と心に誓うのだった。