10 私たちいなくてもよかったんじゃ?
ルル様の周りで男三人が騒いでいる間に、エラン王太子も入場してきた。貴族たちが順番に挨拶に向かっている。
しかし、リコード、ニクソン、モールスはそんなことには構わずに、ルル様のそばから離れようとしない。
「わたくしたちもご挨拶に伺いましょう」
ルル様がそう言うので、私も一緒にエラン王太子へ挨拶に向かう貴族の列へと並んだ。
そんな私たちのうしろから、リコード、ニクソン、モールスもついてくる。
「この度はご招待いただき、ありがとうございます」
「本日は聖女のための夜会だ。ローザと一緒に楽しんでいってくれ」
建前上はルル様の送迎会だが、ルル様を狙っている者以外は、私たちは目障りのようだ。エラン王太子に媚びを売るためか、周りに侍っていて、胡乱げにこちらを見ている。
ここにいる貴族たちは、たぶん挨拶に来るみんなに同じような目を向けているんだと思うけど、とても感じが悪かった。
その他は、自分たちの出会いの場として異性に話しかけることに夢中なようで、ルル様のことは気にもかけていない。でもその方が目立ちたくない私たちにとっては都合がよかった。
「皆様を見ていると、エラン王太子殿下の人気のほどがわかりますわ」
「そうであろう。私もこのように私を慕ってくれる臣下を持てて鼻が高いぞ」
その臣下がルル様のドレスを見てクスクス笑っている。おまえが贈ったものだろう。なんで注意しないんだ。
「ところでローザ、そのショールはなんだ。私は贈った覚えがないのだがな」
「申し訳ございません。わたくしが羽織るように言いましたの。教会ではあまり肌を露出しませんのよ。なんでしたら信徒の方にお聞きになってくださいませ」
「そうか。こちらも気づかずに流行りのものを贈ってしまったのだ。だったら、そのままで構わない」
この胸ドーンなドレスを見たときはエラン王太子の趣味を疑ったけど、周りを見ればみんなかなり露出をしている。
流行りというのは本当らしいが、女の子たちはこんな格好をして恥ずかしくはないのだろうか。
「あとで聖女には話がある。探すのが大変だからホールからは出ないでいてくれ」
「承知いたしました」
うしろに順番を待っている人もいるので、挨拶はほどほどに私たちはエラン王太子の前から離れホールの後方へ移動した。
私たちが治療で貴族家を回っていた時に、その家の令息とは挨拶を交わしている。
パーティーに出席している者の中には面識がある人たちもいた。ルル様は治療後の様子をうかがうため、知っている人が目に入るたびに挨拶して回っている。
声を掛けられた令息たちはルル様には興味がないらしく、話は本当に挨拶程度で終わっていた。
その間もリコード、ニクソン、モールスはずっと私たちについてきている。
そんな中、ルル様が彼らには聞こえない小さな声で私に話しかけてきた。
「これからわたくしに何があっても、止めに入ったり、声をかけたりは絶対にしないで。そのために聖騎士の皆さんにも外で待ってもらっているの。いいこと約束よ」
なぜですか?
なんて聞ける雰囲気ではなかったので、私は小さく首を振り肯定の返事をかえした。