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こんにちは、冒険者ギルドさん。死ぬがよい





 エドワードさんの家は、あったかポカポカな家庭だった。

綺麗な奥さんと、可愛らしいお子さんの三人家族だ。

愛する旦那さんの怪我を治してくれた事に奥さんは凄く感謝してくれて、私の事を歓迎してくれた。

やっぱり人に感謝されるのは嬉しい。気持ちが前向きになる。


 お子さんは初めは緊張してたけど畜生を生贄に捧げたらすぐに打ち解けてくれた。ありがとう畜生。頑張れ。

地球では姿を隠していた畜生だったけど、この世界では普通に姿を見せている。

本人が言うには、魔力が無い人が認識出来ないだけで、この世界ではそれは通用しないらしい。


 地球で魔法少女をやっていた時は、途中から選ばれし者云々と言う発言を疑っていたけど、どうやらそれは本当の事だったみたいで、疑ってごめんね。絶対に謝らないけど。

因みに、私の魔力が地球だとすれば、彼らの魔力は野球ボールくらいなんだって、例えが意味不明だけど、伊達に五年も死線を潜り抜けて来ていないという訳ね。


 夕食は御馳走だったみたいで、みたいって言うのもエドワードさん達の反応を見てそう判断しただけで、私の世界の基準で言えばあまり大した物じゃないのが正直な感想だ。

と言っても、楽しい雰囲気での食事はそれだけで美味しく感じる。家での食事はいつもどこか険悪で、美味しいと思った事はあんまり無い。最後にご飯を食べたのはいつだろう? 魔力があれば食事を取らなくても問題ないと知ってからはご飯を食べなくなってしまった。


 お陰であまり身長は伸びていない。身長はどうでもいい、問題は胸だ。貧乳なのだ。せめて人並みくらいには成長したい。



「それじゃあ、まずは既得権益の話からしようか」


「きとくけんえき?」


 案内された部屋で、畜生と今後の活動について話を進める。

今の服装は奥さんのシャツだ。ズボンはサイズ的にどうしてもはけなかった。シャツ一枚で膝上までカバー出来るので十分なのだけれど、それが逆に悲しい。



「君と僕が居なくても、この世界にはこれまで築いてきた歴史がある。つまり、身も蓋もない言い方をすれば僕たちは居なくてもいい存在という訳だ」


「うん」


「今の所、君の魔力はこの世界においても絶大と言えるだろう。これは今日君が治療したエドワードの言葉から考えも間違っていないと思う」


「うん」


「そこで、君が仮に治療術師とやらになったらどうなると思う?」


「人が助かる」


「……そうだね、間違いじゃない。けど、それまで治療術師として生計を立てていた人はどうなるかな?」


「仕事が減って助かる?」


「……既得権益の話って言ってるだろうが」


「だから、その既得権益って何よ」


「その人たちが築いてきた食い扶持さ、飯のタネ、仕事、お金、ここまで言えば分かるだろう?」


「それがどうかしたの?」


「どうかするさ、さっきも言ったように君の力は絶大だ。市場にはある程度の競争があった方がいいとは言え、君が参入すればそれは競争なんてものじゃない、淘汰だよ」


「………………うん?」


「だから、今まで治療術師として生活をして来た人達が全員路頭に迷って死ぬの!」


「どうして?」


「君の方が優れているから! より良い治療を受けたいと思うのが人の性だろう? それに加えて君の力ときたらほぼ無尽蔵だ。時間の許す限り何千、何万もの人々をどんな怪我や病気だろうが一瞬で治療する事が出来る。こんなバカげた話があるか!」


「まぁ、そうね」


「助かる人は居ても、その陰で泣く事になる人も多いなんて、君の望む所ではないだろう?」


「うん」


「僕達が好き勝手に振舞って世界を滅茶苦茶にしたらいけないよって話……分かった?」


「……多分」


「だからこそ、僕たちは慎重に動く必要がある。その理由の一つが既得権益と言う訳さ」


「あんまりポコジャカと人の怪我を治さない方がいいって事ね」


「……微妙に間違ってるけど、まぁいいか。それに、既存の市場を壊さない方が良い事もある」


「何それ?」


「君の寿命は多く見積もっても百年程だ。その百年の間に君に頼りきりの世界を作ってしまうと、君が死んだ後に世界は衰退するだろう。期間と規模はその時にならないと分からないが、碌な事にはならない」


「……そうなんだ」


「そうだよ、仮に君がこの街に対する外敵……エドワードから聞いた話によればゴブリンだとかオークだとかいう魔物を絶滅させたとして、そうなれば戦う必要が無くなる。一見すれば良い事の様に思えるかも知れないけれど、一番やってはいけない事だ。どうしてだと思う?」


「戦える人が居なくなるから?」


「そう! その通り! 戦える人が居なくなってしまう! 君が生きている内は良いけど、君が居なくなった途端、街は魔物とやらに滅ぼされるだろうね。よく分かってるじゃないか」


「だとしたら、地球は今危ないんじゃない?」


「そうであるとも言えるし、そうでないとも言える。目先の脅威は去ったし、いざとなれば君以外の魔法少女を立てればいいだけの話だ」


「……ちょっと! 他にも魔法少女候補がいたの!?」


「ん? 当たり前だろ? 世界中に八十人くらいは候補が居たさ。とは言っても、最初の戦い以降は力が弱すぎて戦力にはいでででででで!!!」


 平然と私を孤独な戦いに投じさせた畜生の顔を思いっきり引っ張る。私がどれ程魔法少女仲間を! 友達を欲していたか知らないとは言わせないぞ!!



「やべて! ちぎれりゅ!! ほっぺたちぎれちゅあ!!!」


「うるさい! この痛みは私の心の痛みだ! ばかばかばか!!」


「ほんぎゅえええええええええええ!!!!」


 普段の三倍くらいまで顔が伸び切った所で手を放して回復魔法を掛けてあげる。

人の心の痛みを知らない畜生め! はぁ……虚しい。



「…………そういう訳だから治療術師も宮廷魔術師もオススメはしないよ」


「宮廷魔術師も?」


「宮廷って、要はどこかの偉い人に仕えるんだろう? そういうドロドロしてそうな所に君を送るのはちょっと不安が過ぎるよ」


「じゃあ、残すは冒険者?」


「普通の仕事でも良いとは思うけどね。まぁ、冒険者の方が気が楽かもしれない。出生は問われないらしいし、ギルドで登録すれば国にも縛られないから」


「でも、冒険者にも既得権益があるんじゃないの?」


「やり過ぎない様にだけ注意はしないとね。そういえば、君の人生の目的ってなんなのさ」


「とりあえずは、友達が欲しいな。休みの日にカフェでお茶したりする感じの」


「………………。」


「何よ、何か文句でもあるの?」


「いや……悲しい奴だなって」


「お前が言うなぁぁああああああああ!!!!」


 畜生を気のすむまでボコボコにして、私は眠る事にした。

明日は冒険者ギルドに行こう。友達百人出来るかな。




△▼△▼△▼△



 翌朝、家の前でエドワードさんと別れた。

最後まで私に感謝の言葉を述べていたけど、そろそろ感謝され過ぎて恥ずかしくなってきた。

泊まる宛が無かったら何泊でもしてくださいと言われたが、あんまりお邪魔するのも悪いと思うから早い内に自立しよう。


 バイバイと名残惜しそうに手を振る子供に後ろ髪を引かれる。名前を聞いたら、十歳になるまで名前は付けないと言う風習らしい。

なんでも妖精に攫われる? とかなんとか。おい畜生、お前の事だぞ。



「僕は精霊だし、そんな事はしないよ!」


 お子ちゃまの視線がどうにも畜生に向いている事に嫉妬心を覚えつつ、奥さんであるタリアさんにも別れを告げて冒険者ギルドへと向かう。

合言葉は目立たない、手加減しよう、ほどほどにの三つだ。楽しみだなー。





 冒険者ギルドと言う名の酒場の扉をくぐると、朝からお酒を呑んでるダメ大人達が目に入った。

フリフリで可愛らしい私の服装が早くも注目を集めている。目立たない、失敗!



「お嬢ちゃん、ここはお嬢ちゃんみたいなお嬢ちゃんが来る所じゃないぜぇ?」


 酔っぱらってるのか、一つの会話で三回もお嬢ちゃんを連呼しているハゲたおじさんを無視して、受付のカウンターへと足を進めた。



「お使い? それとも依頼の受付かしら?」


 年齢の割には身長が低い私はどうやら侮られる傾向にあるらしい。というか日本でも身長が低かったのに、この世界では尚更だ。身長が高い人が多い。



「冒険者になりたいの、受付はここでするんでしょう?」


「あら、そうなの。いくつか必須事項を記入してもらって、それから説明をしてあげるけど……貴女、文字は書ける? それと読める? 代筆、代読みは別途料金が掛かるけど」


「読めるし書けるので問題ないです」


 この世界の文字は、勿論日本語ではない。というか地球には無い言語だった。でも読めるし書けるし聞き取れるし喋れる。私とリンクしていれば畜生でも同じだ。情報を共有しておかないと困るかも知れないので、早くこの感覚にも慣れたい所だ。



「名前は……シオン、歳は十八……嘘?」


「嘘じゃないし、今年で十九です」


「そう……まぁいいけど。それで職業が…………魔法……少女???」


「はい」


 受付の人が読み上げて、私が返事をすると後ろの方で盛大に笑い声が響いた。



「魔法……少女ぉぉ!?」


「ぶはははは!! 聞いた事がねぇ!!」


「魔術師と何が違うんだ!? 子供の魔術師だからか!? ぶははははははは!!!」


 おい! 魔法少女を馬鹿にするな! 泣きたくなるでしょ!!



「えっーっと……そ、それで魔法って、例えばどんなのが使えるのかしら?」


「得意なのは……シャイニングプリティカルアローです」


「えっ?」


「だから、シャイニングプリティカルアローが使えます」


 久しぶりに口にした恥ずかしい魔法名を述べると、冒険者ギルドは更に爆笑の渦に巻き込まれた。

後ろで座って口々にシャイニングプリティカルアローを声に出して笑い転げるおじさん達。

それは比喩ではなく、実際に笑い転がっているのだから質が悪い。真面目そうな剣士のお姉さんも、受付の女の人も笑いを堪えられていない。なんだこの状況。


 何より腹が立つのが、カウンターの上で腹を抱えて笑っている畜生の存在だ。お前の考えた魔法だろ!

みるみる内に顔が熱くなって、今にも顔から火が出そうだった。だから実際に燃やしてやった。畜生を。



「――――あんぎゃああああああああああああ!!!!」


 畜生の叫び声と共に静寂に包まれる冒険者ギルド。



「死にたい奴から前に出ろ、私が殺してやる」


 そう啖呵を切った私の頭には、先の合言葉なんてこれっぽっちも残っていない。



本気で怒ったかんな!!

Q、学生時代に打ち込んだ事はなんですか?


A、魔法少女活動です


Q、貴女の特技は何ですか?


A、シャイニングプリティカルアローです

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