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現実にさようなら、異世界にこんにちわ




「死ねやぁああああああああ!!!!」


「GYAAAAAAAAAAAA!!!」


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 私が放った光の矢に包まれて、目の前の気持ち悪い生き物が断末魔の叫びを上げて消滅していく。

人の悪意を具現化した存在だとか、別次元からの侵略者だとか、細かい話は忘れたが、その親玉だ。



「……死ねやぁあああああ! じゃなくてさ、シャイニングプリティカルアロー☆だって」


「うっさい! 本当にこれで終わりなんでしょうね!?」


「うん、終わりだよ。ありがとう、君のお陰で世界は救われた」


 ぬいぐるみの様な存在が私の肩の上で不満なのか労いなのか分からない態度で喋っていた。

コイツの名前はキュイッピー。私に魔法少女としての力を与え、戦いに巻き込んだ畜生だ。



「はぁー……これでやっと日常に、普通の女の子に戻れるのね」


「長かったからねぇ、もう女の子って呼んでいいのか分からないけど」


 息を吐く様に憎まれ口を叩いた畜生を光の矢で貫いてやった。どうせこのくらいでは死なないので問題はない。



「何するのさ!」


「誰のせいだと思ってんのよ!!」


 頭に穴が空いているのに平然と抗議してくるコイツが、私の青春を奪った全ての元凶だ。

当時中学生だった私の前に忽然と現れ、「魔法少女になって世界を救ってよ!」というお決まりの口説き台詞に踊らされて五年が経った。

 戦いが終わる度に、次々と現れる新しい敵。それらの対応に追われ、私の青春は全て虚無へと消えて行った。


 でも、それももう終わりだ。碌に受験勉強が出来ず、屈指の低偏差値高校に何とか受かり、大学受験も出来ないままに就職する事が決まった私の青春がようやく始まる……青春あんのこれ?

因みに就職先は決まっていない。考えれば考える程、未来に希望が持てないので最近は考えるのを止めていた。いざとなれば最近流行りの動画配信者になって魔法の力で稼いでやるだけだ。



「まぁ、もうじきこの空間も崩れ落ちるから、早く脱出しよう!」


「はいはい、分かってるわよ」


 現実世界に戻ったら取りあえずお金を貯めて家を出よう。

五年も人知れない戦いに身を投じる破目になったせいで、親との関係は険悪そのものだった。

いっそ全てを話してやろうかと思ったけど、気付いた時には話した所で理解は得られない所まで関係は拗れていた。

 そりゃそうだ、年頃の子供が夜な夜な親の制止も聞かないで家を抜け出して、友好な関係なんて築ける訳がない。


 親や友達に心配を掛けまいと黙っていた当時の自分を殴りたい。いや、私は悪くない。畜生が悪い。そうだ、畜生を殴ろう。



「ぶべっ! どうしていきなり殴るんだ! 本当に君は乱暴になったな!」


「私の青春を返せ! この! この!」


「そこはごめん。ほんとごめん。まさかこんなに長丁場になるなんて思いもしなかったよ」


こんな畜生でも罪悪感は感じている様で、私にポコポコ殴られながらも謝罪の言葉は口にしてくれる。謝られたからと言って許すかどうかは別の話だけど。



「でも! 詩音! そんな事してる場合じゃないんだって! 早く出ないとこの空間の崩壊に巻き込まれてしまうよ!」


「うるさいうるさい! 出ればいいんでしょ! 馬鹿!」


 やり場の無い怒りをぶつけながら、自分が開けた異次元の穴に飛び込む。

魔法少女としてたった一人で長年戦い続けて来た私に出来ない事は殆どなく、攻撃は勿論、自己強化から自己回復、空を飛ぶ事だって出来る。


 空間を超える時に眩い光に包まれて、今となっては居場所が無い現実世界へと帰る。帰ったら友達を作るんだ。ここ数年の間、畜生としかまともに会話をしていない気がする。惨めな人生と遂におさらばするんだ!



 空間を抜け、目を開けると知らない平原に立っていた。


何処よここ。

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