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2.疎遠

記憶が少々あやふやなので、

時系列とか、内容とか、

多分、あまり正確ではないと思います。

”危ない” の意味が何となく分かったのは、確か5年生のときだった。

その友達と私は同じクラスだった。


ある日の休み時間、

いつも大人しくてオドオドしている人を、からかって(と言うか、馬鹿にして)遊んでいる人がいた。

からかわれている人は、

(うつむ)いたまま、黙ってひたすら耐えていた。


少しして、教室の誰かが小さな声で、


「やめろよ」


と言った。

そして、その声を皮切りにして、

それまで遠巻きに傍観していた人たちが、次々と声を上げた。


「そうだ、やめろよ。かわいそうじゃないか」


「お前、

 いつも言い返さないヤツばっかり狙ってイジメて、卑怯じゃないか」


からかっていた人は、

自分の旗色が悪くなったことを感じたのか、ちょっと動揺した表情になり、

からかうのをやめ、

やめろコールをしている人たちの方に詰め寄っていった。


「るせぇ! 文句あるのかよ!」


そう言って、

やめろコールをしていた人の胸元を掴み上げたとき、

私の友達が、物凄い勢いで飛び掛かった。

その、からかっていた人を力いっぱい床に押し倒す。


私の友達は、

体が、ガッシリとしている人だった。

筋トレを普段から欠かさず、

まるで体操選手のような、(たくま)しい体つきをしていた。

腕相撲はクラスで一番だし、足も速かった。


なので、

押し倒された人は、ひとたまりもなかった。

抵抗しようともしなかった。

すぐに、

うつ伏せの格好で背中を丸めて、頭を抱え込み、

カメのような、身を守る体勢になって、

必死に謝り始めた。


「悪かった! 悪かった! もうやめるから!」


友達は、

でも、許さなかった。

馬乗りになり、

組んだ両手で、その背中を何度も何度も力いっぱい叩く。


「どうだ! どうだ! どうだ!」


最初は、

私の友達に対して、クラスのみんなは声援を送っていたが、

やがて、だんだんと静まり返っていった。

私の友達が、

背中を力いっぱい叩くことを、なかなかやめようとしなかったからだ。

叩かれ続けている人は、


「ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい!」


と、顔を真っ赤にして泣いていて、

だんだん声も出なくなり、

そのうち、

うめき声と、咳き込む声しか聞こえなくなってきた。

でも、友達はやめなかった。

楽しそうに、

悦に浸った表情で、

ひとり、力いっぱいに叩き続けた。


結局、

先生が来る時間の間際になって、

誰かが、


「もうやめてあげなよ・・・」


と声をかけるまで、ずっと叩き続けていた。

そのときの私は、気が動転していた。

最初のうちは、

正直言って、いい気味だ・・・と思っていた。

その、からかっていた人は、

いつもクラスの弱そうな人を狙って、

悪口を言ったり、嫌がらせをして喜んでいるような人だった。

何度も何度も、その現場を見たことがある。

私だって、

1年生のときに散々からかわれて、イヤな思いをした記憶がある。


ただ、途中から、

ちょっとやり過ぎなんじゃないか、

いくらなんでも、これ以上はかわいそうだ、

と、思うようになっていった。


止めた方が・・・と、思った。


でも、止めなかった。

その力の矛先が自分に飛んでくるような気がして、怖かったのと、

あとは、

その友達の、普段とはまったく違うさまを目の当たりにして、

まるで自分が夢の中にでもいるような、別世界の出来事を見ているような、

そんな感覚になっていて、

目の前で行われている暴力が、よく分からなかった。

ただ、呆然と眺めていた。


その後、

叩かれていた人は、体を支えられて保健室に連れて行かれて、

授業が始まった。

先生の話を上の空で聞き流しつつ、

これが、あのとき言われた ”危ない” って意味か・・・と、

私は、ふと思った。



その友達とは、

それまでと変わらずに、その後も友達だった。

私に、仲の良い友達が他に増えたので、

交流の頻度は落ちたが、

それでも、たまに遊んでいた。

あの一件以来、

怖がる人や避ける人が目立つようになったし、

私も、実は内心ちょっと怖がっていたが、

でも、それを態度に出すようなことはしなかった。

今まで通り接していたし、

向こうも、今まで通り私に接してきた。


あるとき、

その友達の家に遊びに行くことになった。

友達になって、かなり経っていたが、

行くのは初めてだった。

どんなやり取りがあって、そうなったのかは、

よく覚えていない。


「ちょっと散らかっていて悪いけど、気にせず入れよ」


そう言って、

入口近くで電気のスイッチを入れたあと、

リビングらしい、広い部屋にズカズカと入っていく。

私は、ちょっと驚いた。

その部屋が、雑多な色々な物でごった返していたからだ。

毛布やマットレスが無造作に放置され、

その上に、

机の抽斗やら扇風機やら色鉛筆やらティッシュの箱やら、

とにかく、ありとあらゆるものが散らかっていた。

部屋の端の方には、

床に倒れて斜めになった本棚が、うつ伏せ状態になっていて、

その周りに、本がたくさん散らかっていた。

窓はあったが、

外はまだ明るいにも関わらず、雨戸が閉じられており、

カーテンも引かれていた。


私は、

部屋の入口で少しだけ躊躇したが、友達に続いて、

足の踏み場に注意して入っていく。


実は、

こういう部屋を見たのは、私は初めてではなかった。

別の友達の部屋で、もっと酷いのを見たことがあった。

色々なものが、床から50cmは積まれている状態の部屋で、

最も高く積まれているところは、

当時小学生の私が、立たなくとも頭が天井に付いてしまうくらいだった。

なので、

そのときの私は、そんなには衝撃を受けなかった。


友達は、

部屋の一番奥の、テレビの前まで行くと、

床に散らかっていたものを足で退()け、スペースを作り、


「ここで座って、待ってろよ」


と言って、部屋を出ていき、

少ししてから戻ってきて、

私の隣の床上を足先で掃き、物を退けてから、

腰を下ろした。


「これ、食べろよ」


座るなり、そう言って、

コーヒーゼリーが3つ入ったパッケージを、私の前に置いたが、

あぁ、そうか、と言って、

また立ち上がって、部屋を出ていった。

すぐに戻ってきた友達は、

紙スプーン(()の部分を折り出すタイプのヤツ)がたくさん連なったものを持ってきて、

私の隣に腰を下ろして、

コーヒーゼリーのパッケージの近くへ、その紙スプーンの束を放った。


「遠慮せずに食べろよ、美味いから」


友達が、そう言いながら、

コーヒーゼリーのパッケージの包装フィルムを破り、

ゼリーを1個取り出し、そのフタを剥がす。

付属のミルクを入れると、

慣れた手付きで紙スプーンを組み立て、グチャグチャとかき混ぜる。

私は、ちょっとしてから、

コーヒーゼリーが2個になったパッケージに手を伸ばす。


そのときの私の心境を書くと、

正直言って、

コーヒーゼリーを食べることに、あまり乗り気では無かった。

それまでコーヒーゼリーを食べたことがなく、

黒ずんだ焦げ茶色の見た目も、どう見ても美味しそうには思えなかった。

そして、

誰かの家で何かをご馳走になることに、

当時の私は、いつも申し訳なさを感じていた。

嬉しさよりも、そっちの方が遥かに大きかった。

あと、それとは関係ないけど、

紙スプーンの束を見たとき、

普通のスプーンなら洗って何度も使えるのに、もったいないな・・・とも思った。


話が、ちょっと逸れたけど、

とにかく、

私は、あまり乗り気ではない感じでコーヒーゼリーに手を伸ばし、

そのフタを剥がした。

紙スプーンの束から、ひとつ千切り、

袋から出して、組み立て、

それから、ミルクに目を向けた。


入れようか、迷っていた。

私は、牛乳が大嫌いだった。

給食の牛乳も、

いつも我慢して、一気飲みしていたし、

家でも、ほとんど飲まなかった。


でも、この付属のミルクを使わなかったら、

多分、捨てられるんだろうな・・・と思うと、もったいなくなり、

それで、仕方なくミルクを入れることにした。

罰ゲームを受けるときのような、暗い気持ちで、

ミルクの入ったコーヒーゼリーを、

友達がしたように、紙スプーンでグチャグチャとかき混ぜる。

恐る恐る、口に持っていく。


美味しかった。

かなり警戒していたので、驚いた。

じっくりと味わいながら、少しずつ食べていく。


「な? 美味いだろ?」


私は頷いた。


友達とは、

その後、1時間くらいそこでゲームをして、

それから、私は家路についた。


その日から、

私の好物にコーヒーゼリーが仲間入りした。



いつ頃からだったかは、正確には分からない。

でも、

多分、6年生に上がった時期ぐらいだと思う。

その友達と私は、疎遠になった。

あまり遊ばないようになったし、あまり話さないようになった。

確か、

その友達とは、6年生のときはクラスが別だったけど、

その他に、理由があるみたいだった。


私に失望したみたいだった。


「これまでずっと凄かったのに、ゲームばかりしているからダメになった」


そんなことを、面と向かって言われた。


それまでの彼は、

私に対して、一目を置いていたらしかった。

私自身も、

たびたび、それを何となく感じていたが、

でも、

彼がどうして私に一目を置いていたのか、

さっぱり分からなかった。


彼の絵は文句なく凄かったし、運動神経も彼が上。

テストの点数は私の方が良かった(彼はいつも100点中20点とか、そんな感じ)が、

それは、

彼が先生の話をろくに聞いていなかっただけだ。

真面目に授業を受ければ、私はどうやったって敵わない。

これまで長く彼に接してきた私は、それをよく分かっていた。


なので、

私は愛想笑いを浮かべたまま、何も言い返さなかった。

彼も何も言わずに、

少ししてから、私の前から黙って去っていった。


それからは、私と彼が遊ぶことは無くなり、

そのまま、私たちは小学校を卒業した。

書き忘れましたが、

彼は普段から周囲の人たちに対して、軽く粗暴な態度をとっていました。

気に入らないことがあれば、ちょっと強く小突く程度で、

イジメというほどのものは、

上述した件以外では、私は見た記憶がありません。

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