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宇宙の花

作者: 夜桜 蕾

読み方は、『宇宙(そら)(はな)』です


「去年の花火は綺麗だった」で始まり、「君はきっと泣くだろう」で終わる診断メーカーのお題を書いた作品です。

去年の花火は綺麗だった。


目に映る景色が、綺麗な光で色づいていた。生きている心地はしなかった。そばで聞こえる轟音と、視界の光の花だけが。ただただ、俺を包んでいた。

すぐ隣には俺と同じように黙って空を見上げる人が居た。その子の瞳はキラキラ輝いている。しばらく見つめていると目が合った。その子は俺を笑顔で見つめると、そっと手を握ってきた。俺はその華奢な手をそっと握り返した。


✺⋆*


今年も、そんな時期がもうやってきてしまっていた。蝉の声が窓の外から響く、暑い暑い夏。


花火大会は、もうすぐそこだ。


去年は彼女の花那(かな)と一緒に行った花火大会だが、俺にはもう彼女なんていなかった。俺から花那を振ったはずなのに、こんなにも思い出してしまうとは。なんて俺は女々しいのだろう。


「ごめん、俺じゃお前を幸せにできない」


大好きだった彼女の花那に、俺はそう言った。その時のことを鮮明に覚えている。誰よりもよく笑う、花那は泣いていた。瞳に涙を沢山ためて。


そして、俺に

宇宙(そら)くん、今までありがとう」

と無理に笑顔を作って言った。それが俺らの終わりだった。


はっきりいって邪魔だった。花那の存在ではなく、俺の中で渦巻く醜い感情全部だ。


可愛くて、花のようにいつも笑顔を振りまき、周りを幸せにする彼女に「花那」という名前はぴったりだった。

誰とでも親しく話す、とても優しい花那。だからこそ、その相手に嫉妬した。同性でも異性でもそんなの関係なかった。俺の中には、花那を独占したいという欲ばかりしかなかった。


『俺のモノなのに』そう思ってる俺自身が嫌だった。


落ち込んだ時も、辛く当たった時も。花那はいつだって俺にこう言った。


「私はずっと、宇宙くんの味方だよ」


そう言ってくれる花那に無理させていると思ってしまった。花那を好きすぎて、俺自身がダメになると思った。


俺は花那に依存していた。


花那が他の誰かと話したあとは辛く当たった。無理矢理唇を奪って、「男なら誰でもいいのかよ」なんて。心にもない言葉を言い放った。

軽くボディータッチをされたならば、「宇宙くん、苦しい、よ……」と言われるまで花那をきつく抱きしめた。


その後に花那は、いつも言った。


「宇宙くん、ダメな私でごめんね」


その度に、乱暴にあたる行動とは裏腹に罪悪感でいっぱいだった。俺が花那をダメにしてるようにしか思えなかった。


(俺じゃ幸せにできない)


真っ先に思ったのはこれだった。俺が花那を不幸にしていると思った。


だから、別れを選択した。


✺⋆*


大きく耳障りな音が、俺の耳を刺激する。


一人で見た花火は、色がなかった。でも何故か、泣きそうになった。周りに人がいることに気づき。必死で隠す。


そして、花火を見て思い出した。綺麗だった去年の夜空の花。今でも好きな花那のこと。


幸せだった、一緒にいた日々全て。


俺はなんて、都合のいい男なんだ。自分から振っておいて、まだ好きだとは。


でも、花那を誰にも取られたくないと思った。強く。


信じてもいない神へ願うほどに。


(花那に会いたい)


夢かと思った。ふと視線の先には、見覚えのある姿が……。


それは、花那だった。


俺はまだ音のする空をほっといて走った。花那を探してひたすらに。


(見失った……?)


花那だと思っていた女性は、全くの別人だった。


ははっ。まあそうだよな。俺から振っておいてまた好きだとか都合いいもんな。こんなクソ野郎、神は見放すだろうな。


クソッ。思いっきり足を殴ると、蹲りたくなるくらいに痛かった。


「宇宙、くん……?」


聞き覚えのある声。俺の大好きな声。振り返るとそこには花那がいた。


「やっぱり宇宙くんだ!元気にしてた?」

浴衣姿の花那は、屈託のない笑顔で俺に話しかけた。

「ああ、元気にしてたよ。花那は?」

ニヤけそうになる顔を必死で取り繕って聞いた。

「元気なんだけど、ね。花火は去年の方が綺麗だったなぁって、飽きて少し抜けてきちゃった」

その瞳は、辛そうにしていた。


(抱きしめたい)


そんなどうしようもない欲望は、止める理性なんか吹っ飛ばして、行動に起こしていた。

「宇宙くん!?」

不思議と、花那は嫌がらなかった。前みたいに強く抱きしめたのに。


「なぁ花那、すごくダサい事言ってもいいか?」

花那は頷き

「私はいつでも、宇宙くんの味方だよ」

と言った。


「俺、まだ花那のことを好きだ」

そう言って腕を解くと、花那はポロポロ涙をこぼしていた。

「ご、ごめんっ。忘れてくれ、こんなクソ野郎のことなんてさっさと。さっきの言葉も全部だ」

すると、花那はううんと首を振った。

「違うの、嬉しいの。そんな事言わないで…?私はずっとずっと宇宙くんのことが好きだったから」


花那はそっと俺の頬に手を当てた。いきなりのことに理解出来ていなかった俺に、花那はそっとキスをした。

そして、鈴のような声で

「好きです。今でも宇宙くんのことが。大好きです、愛しています」

泣きながら、微笑む。浴衣の似合う彼女はそう言った。

「俺が、また付き合ってくださいって言ったら……?」

戸惑い気味に聞くと、花那は俺に抱きつく。


「喜んで」


花那は、俺の胸で泣いた。


泣きじゃくる彼女をずっと撫でた。

「ごめんな、花那。俺ずっと分かってやれなかった」

「うん……」

「俺が花那をダメにしてると思った」

「バカ……。私がそばにいたのはなんでだと思っていたの……?」

「俺は、バカだよ。花那を俺だけのものにしたいって欲が渦巻いて、一緒にいられないと思ったんだ」

「宇宙くんのあほ。ちゃんと話して」

「ああ、アホだな」

「私、そばにいるだけで幸せだったのに。俺じゃ幸せにできないなんて言わないで」

「はい」

「もう二度と、一生」

「わかったよ、花那のこと俺が幸せにする」

「今度私を泣かしたらいくら宇宙くんでも許さない。次泣く時は…プロポーズの時の嬉し泣きにしてね……?」

「え?」


「きっと嬉しくて泣いちゃう……」


先程の俺を攻める言葉とはうって変わって。とても弱々しい声だった。


命にかえても守りたいと思った。


✺⋆*


ずっとそばにいてくれた彼女の花那に。俺は今日、プロポーズをします。


オーダーメイドで作った、花那の一番好きな好きな秋桜(コスモス)がデザインされた指輪を持って。


感情に素直で、泣き虫な花那。君はあの日の言葉通りに……。


君はきっと泣くだろう。


❦ℯꫛᎴ❧

選択されたワードが悲恋を表しているように思えましたが、あえてハッピーエンドにしてみました。30分程度で書いた作品でしたが、とても楽しかったです。


読んでくださった皆様に感謝を!ありがとうございます!!

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