第七話 うんん、ごめん。
夢を見ていた気がする。どんな夢だったかは忘れてしまった。ただ、暖かくて懐かしいような夢のような気がする。
ゆっくりと目を覚ませば、柔らかい光が差し込んでいた。太陽の強い光ではない。もっと柔らかくて優しい月の光である。
そんな中でヨイヅキは考える。なぜ、こんなにも寝てしまったのか、と。確かに、このところ少し気を張っていたのかもしれない。いつもは、一人だが今では二人になっているからだ。
まだ、信用できないのだ。深く深く心に人間の恐怖がこびりついている。
ヨイヅキは一人で思う。少し、それも一日も経たない内に人間しかいない町に降りるのだ。それは、一人では考えもしなかったことであろう。
キュウ、と腹が鈍く痛む。考えれば考えるほどに痛くなっていく気がして、別の事を考えようと必死になった。
目をちゃんと開けば隣にはまだ眠っているラヴァの姿があった。起きているときの活発な雰囲気はどこへやら。気の弱い華奢な女性の姿があった。
「人間、なんだよなぁ」
「そうだよ? 当たり前じゃない。私は人間、それにあなたも人間よ」
小さな呟きに返答が来た。寝たフリ、だったのだろうか。少しだけ驚いた。だが、驚いていないフリをして会話を始めてみた。
「まぁ、そうだがな」
「ねぇ、驚いた? 寝たフリ、上手かったでしょ?」
憎たらしいぐらいに清々しく笑って聞いてきた。だからこそ、同じように返してやったのだ。
「驚くわけないだろう? 気づいていた」
「嘘つけぇーい! ちょっと、ピクってしたもん」
「ねぇ。明日はちゃんと町に行くんでしょ? ならもうそろそろ出た方が良いんじゃない?」
「ん? あぁ、そうだな。なら、準備していくか」
そこから黙々と準備を始めていった。黙々と、だ。決して騒がしくはなっていない、と言うのがヨイヅキの談である。
着ていく服や、金銭、そして盗賊や魔獣用の武器。そして、帰りに荷物を持っていく為の道具。
「ねぇ。ヨイヅキ」
「どうした?」
唐突にラヴァが話しかけてきた。それまでは、ずっと一人で黙々と料理を作っていたのに、だ。不思議そうにヨイヅキが返答した。
ゆっくりとこちらを振り返ったラヴァは、泣いていた。だがヨイヅキには、どうして泣いているのかが分からないのだ。
どう受け答えすればいいのか、なんてものも、まったく分からない。
「あのね、ヨイヅキ。私は、ね」
「どうしたんだ? それにどうして泣いている?」
「うんん、ごめんね。やっぱり、何でもないや。よしっ。夕飯も出来たし、食べたら町に向かって出発だねっ」
涙を拭って、笑顔になってからそう言った。言葉の続きと涙の訳は聞けそうにもない雰囲気となってしまったので、ヨイヅキは触れずじまいだった。
モヤモヤとした気持ちになってしまったが、夕飯はとても美味しかった。