表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/8

第七話 うんん、ごめん。

 夢を見ていた気がする。どんな夢だったかは忘れてしまった。ただ、暖かくて懐かしいような夢のような気がする。


 ゆっくりと目を覚ませば、柔らかい光が差し込んでいた。太陽の強い光ではない。もっと柔らかくて優しい月の光である。



 そんな中でヨイヅキは考える。なぜ、こんなにも寝てしまったのか、と。確かに、このところ少し気を張っていたのかもしれない。いつもは、一人だが今では二人になっているからだ。


 まだ、信用できないのだ。深く深く心に人間の恐怖がこびりついている。



 ヨイヅキは一人で思う。少し、それも一日も経たない内に人間しかいない町に降りるのだ。それは、一人では考えもしなかったことであろう。



 キュウ、と腹が鈍く痛む。考えれば考えるほどに痛くなっていく気がして、別の事を考えようと必死になった。


 目をちゃんと開けば隣にはまだ眠っているラヴァの姿があった。起きているときの活発な雰囲気はどこへやら。気の弱い華奢な女性の姿があった。



「人間、なんだよなぁ」

「そうだよ? 当たり前じゃない。私は人間、それにあなたも人間よ」


 小さな呟きに返答が来た。寝たフリ、だったのだろうか。少しだけ驚いた。だが、驚いていないフリをして会話を始めてみた。



「まぁ、そうだがな」

「ねぇ、驚いた? 寝たフリ、上手かったでしょ?」


 憎たらしいぐらいに清々しく笑って聞いてきた。だからこそ、同じように返してやったのだ。



「驚くわけないだろう? 気づいていた」

「嘘つけぇーい! ちょっと、ピクってしたもん」


「ねぇ。明日はちゃんと町に行くんでしょ? ならもうそろそろ出た方が良いんじゃない?」

「ん? あぁ、そうだな。なら、準備していくか」


 そこから黙々と準備を始めていった。黙々と、だ。決して騒がしくはなっていない、と言うのがヨイヅキの談である。


 着ていく服や、金銭、そして盗賊や魔獣用の武器。そして、帰りに荷物を持っていく為の道具。




「ねぇ。ヨイヅキ」

「どうした?」


 唐突にラヴァが話しかけてきた。それまでは、ずっと一人で黙々と料理を作っていたのに、だ。不思議そうにヨイヅキが返答した。


 ゆっくりとこちらを振り返ったラヴァは、泣いていた。だがヨイヅキには、どうして泣いているのかが分からないのだ。

 どう受け答えすればいいのか、なんてものも、まったく分からない。



「あのね、ヨイヅキ。私は、ね」

「どうしたんだ? それにどうして泣いている?」



「うんん、ごめんね。やっぱり、何でもないや。よしっ。夕飯も出来たし、食べたら町に向かって出発だねっ」


 涙を拭って、笑顔になってからそう言った。言葉の続きと涙の訳は聞けそうにもない雰囲気となってしまったので、ヨイヅキは触れずじまいだった。



 モヤモヤとした気持ちになってしまったが、夕飯はとても美味しかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ