第五話 ねぇ、どうして?
「ねぇ、どうして? どうしてさ、この服は採寸されたかのようにピッタリに作られてるの? ねぇ」
「ま、まて。落ち着け。一旦、落ち着くんだ。断じて俺は寝ているお前を採寸していない!」
ラヴァが水浴びから帰ってきてから、ヨイヅキ製の服を着ている。だが、その服の採寸が気持ち悪いほどにピッタリだった。まるで測ったかのように。
「嘘だ。だって、こんなにピッタリに作れると思う?」
「偶然だっ! 竜人の誇りに賭けて誓う。断じて、お前が眠っている間触れていない」
ヨイヅキもこんな所で、竜人の誇りを使うとは思ってもいなかっただろう。だが、その言葉を聞いてラヴァは、なら信じる、と言った。
まさか、信じて貰えると思っていなかったヨイヅキは、少しだけ気になった。どうしてそんなに簡単に信じられるのか、と。
「どうして、そんなに簡単に信じた。竜人の誇りの意味を知っている訳でもないだろうに」
「もちろん。竜人の誇り、って言うのがどんな物なのかは知らない。だけど、ヨイヅキにとっては、大切なものなんでしょ?」
焦げ茶色のラヴァの目に見透かされるように見られて、また目を逸らしてしまう。どうも、じっ、と見つめられるのが苦手なようだ。
「そうか。それにしても、生活するにも備品が足りなくなるな。どうしたもんか」
「無いなら買うしか無いじゃない」
「そうなんだけどな」
無いなら買うしか無いのだが、人里に行くのはどうにも不安である、と言うのがヨイヅキの心情である。
「あ、お金が無いのか。んー。どうしよう」
ヨイヅキの困り顔を違う意味で捉えたラヴァ。金は実はそこそこ持っていたりする。服を作り、たまに来る行商人に売り付けている。買い叩かれているのは分かっているが、元値はほぼ無料である。
「金ならあるぞ。だが、俺の正体がバレないかが心配なだけだ。一応、見た目を変更する魔導具を作ったのだが、成功しているのか分からないしな」
「なら、私が確かめてあげる。そして、成功していたら人里に行きましょう!」
早く早く、と急かされヨイヅキが小さな水晶のネックレスを持ってきた。半透明に見えるがよくよく見ると、緻密な魔方陣が幾重にも書かれている。
「付けてみたんだが。どうだ? 一応、姿は人間に見えるだろう?」
「本当だ。長い耳が無くなってる。しかも、触った感じも誤魔化されてる。すごい」
「すごいだろう? くすぐったいから止めろ」
手を優しく払いのけた。これで、このネックレス型の魔導具の効果が分かった。これなら、安全に行けるだろう。
「なら、買い出しに行くか。それで良いか?」
「もちろん」
嬉しそうに準備をし始めている。そんなに買い物に行くのが楽しみなのだろうか? ヨイヅキにはあまり理解できない心情である。
「ねぇ、ヨイヅキはさ。強いの? 弱いの?」
「どう言うことだ? それは、竜人の中で、と言うことか?」
唐突に聞かれたのは、強さだった。どうして聞くのだろう、と不思議に聞き返す。だが、ラヴァはもう一度問いかけた。
「いや、ヨイヅキ対人間だったら」
「それなら、どんな英傑だろうが一対一なら負けはしないぞ? 竜人の中でも、上の下ぐらいの強さだと自負している」
まず、竜人と人間、獣人では圧倒的にポテンシャルが違う。数こそ少ないが、竜人はかなり強い。驚異的な筋力、五感、魔力量、もはや戦闘種族と言っても過言ではない。
だが、魔力が尽きる程に攻撃をされ続ければ竜人であろうが死ぬ。人間、獣人達は限界まで攻撃を仕掛けて竜人を殺しているのだ。かなりの犠牲を払ってでも。
「へぇ。そうなんだ。さすがだね」
「褒め言葉として受け取っておく」
少し称賛がむず痒く感じて、ラヴァに背を向ける。振り替えればニヤニヤしたラヴァの顔が見られることだろう。あえて、見ないが。
「明日から町に向かって移動するが、今日はどうする? なにかすることはあるか?」
「ねぇ、昔話を聞かせてよ。ヨイヅキの昔の話を」
「別に良いぞ? だが、他言無用で頼む。恥ずかしいからな」
「分かっているよ。二人だけの秘密だね」
にこやかに笑って、椅子に座った。聞く気しか無いらしい。どうせ、まだまだ早朝である。たまには過去を振り返るのも悪くないか、と思い語り始める。ヨイヅキの人生の一端を。