第四話 すまない
夢を見ていた。よく見る悪夢。誰の記憶かも、分からない。
「×××はね。竜の王になるの。その素質を受け継いだのだから」
「うんっ!」
親竜と子竜が話している。だが、ヨイヅキは竜の王にはなれない。
なれるのは、《光》《再生》《癒》《慈悲》のどれかを持つ竜だけである。《影》という正反対の物を持つヨイヅキにはどんなに足掻いても無理な話なのだ。
「×××はね。お母さんの《×××》とお父さんの《×××》を受け継いだ竜なのだから」
「お母さんとお父さんの力……」
ノイズが走ったように、名前が聞こえない。何を受け継いだのだろうか、目の前の子竜は。
そして、同じように絶望が現れる。竜の王の崩座と竜の国の消滅。
子竜の目の前で、両親が殺された。最も残虐な方法で。母親は、魔獣に生きたまま喰われて死んだ。何も残らず、全て。まるで元から居なかったように。父親を殺したのは子竜だった。
眠らされ、魔方陣の上に置かれた子竜。そして、もう一つの魔方陣に置かれた親竜。子竜には、もう一つの魔術が掛けられていた。
パニック、と呼ばれる魔術。精神に干渉しパニックを起こされる魔術。並大抵の精神力では掛からない。だが、深い心の傷を負った子竜には抵抗出来なかった。
魔方陣の上から飛び出てしまった。
この時、パニックの魔術が強制的に解除されて目の前の事実を見てしまった。
魔方陣の上で、腐っていく己の父親の姿を。魔力はロクに回復していない。だが、憎悪だけは子竜の心を蝕んでいた。
「お前の父さんを殺したのは、お前なんだよ。どんな気持ちだ?」
ゲラゲラと笑いながら、兵士が近づいてきた。魔力の無い竜人。それも、子供には何も出来ないと思ったのだろう。
「どうして、どうして、人間は醜い。同族で傷つけ合うの好む? 俺には分からない」
「違う、全ての人間がそうなんじゃない。確かに醜い人間は居る。だけどね。それが全てじゃないよ」
どこか懐かしい声が聞こえた。なぜ、懐かしいと感じてしまうのだろうか。知っている。この声は、昨日出会ったばかりの人間の女の声。
「俺には、全ての人間が醜く見える。お前も、例外じゃない」
「そうね。それを私は否定することはできない。それと起きてもらえる? そろそろ恥ずかしいのだけど?」
夢だと思っていたら現実だったようだ。目を開くと至近距離にラヴァの顔があった。顔が赤く染まっている。どうやら、無意識に引きずりこんでしまったようだ。
「すまない」
「べ、別にいいけど。そ、それとっ! 料理、作ったわよ」
スタスタと歩いていくラヴァ。それに続いていくヨイヅキ。
少しずつ良い匂いがしてくる。朝食を作ってくれた、と言っていたのでその匂いだろうか? だが、あるのは巨大猪肉、セージの葉、食べれる根菜類しかなかったはずである。
一応、食べたら体調を崩す、なんて食べ物は入っていない。山にある食べられそうな物は片っ端から食べていった。
その為か、解毒魔術には大変お世話になった時期がある。
目の前には、まだ暖かいのか湯気の立っているスープがあった。昨日まで食べていた物よりも何十倍と美味しそうである。
「すごいな」
「これが本当の料理ってやつよ。ほら、食べましょう」
ドヤ顔であった。褒められたことが嬉しかったのかもしれない。その言葉を皮切りにヨイヅキ達は食べ始めた。
「なんだこれは、美味しいなっ。天才か?」
「ふふん。でしょう?」
「な、なぁ。料理を教えてくれないか? これを食べてしまったら、絶対に昨日までの食事に戻れなくなる」
「いいわよ。その壊滅的なセンスを直してあげる」
和やかに、だがかなりの速さで食事が終わった。
「ね、ねぇ」
「なんだ?」
朝食を摂ってから、一息する前にラヴァがもじもじと様子を伺うようにヨイヅキに問いかけた。
「ん? どうした?」
「あ、あのさ。無かったら無かったで良いんだけどさ。お風呂とかって……」
「あるがどうした?」
「え?」
「ん?」
どうやらそう言う事らしい。風呂に入りたかったと。確かに、ここは洞窟である。それに、風呂があるのは基本的に金持ちの家だけであり庶民は水で濡らした布で体を拭くぐらいしかしない。
「ほら、着いてこい。案内するから」
「うん。早く聞いとけば良かった」
後半の方はヨイヅキには少し聞き取れなかったが、そんなことは気にせずに案内していく。
「す、すごい」
「どうだ? 驚いただろう?」
滝がある。それも、先程の料理をしたような小さな物ではない。かなり大きめの物である。なぜ、洞窟の中にあるのかが謎である。
「これ、どうなってるの?」
「よくぞ聞いてくれた。これはな、近くの滝壺の下に高隠密魔方陣を配置してだな、そこから──」
ラヴァは基本的に最初の方で理解するのを諦めた。もはや、固有能力である影を模した魔方陣を使った物である位しか理解できなかった。
「──と、言うわけだ。分かったか?」
「分かったわ。私には理解できない、って事が」
笑顔で言い放った。ヨイヅキの顔が引きつる。だが、本人も理解して貰えるとは思っては居なかったらしく、そうだよな。とだけ言っていた。
「あ、あぁ。それと、これ。替えの服だ。また、その服を着るわけにもいかないだろう?」
「え、あ、ありがと。じゃ、じゃぁ。水浴びしてくるから覗かないでよ?」
「覗く訳が無かろうが。そこまで、信用が無いか? 替えの服と乾いた布はここに置いておくぞ」
「はーい」