第二話 苦っ
森の中を歩いている二つの影があった。そう、ヨイヅキとラヴァである。二人は、ヨイヅキの隠れ家に向かって歩いているのだ。
まだまだ、日は高く気温が一日で一番高くなる時間帯。冬だと言うのにほんのりとラヴァは汗ばんでいた。
ヨイヅキは慣れているので簡単に歩いていくのが、ラヴァはそうではない。初めて歩いた場所であるので無駄に体力を消耗してしまっていた。
また、それにヨイヅキが気が付かずにスイスイと行ってしまうのも問題だったりする。
「ちょ、ちょっと待ってよ。速い!」
「そうか? これでも遅く歩いているのだが? それに、これ以上ゆっくり歩くと帰り付く時には日が暮れるぞ」
ヨイヅキが振り向きもせずに言った。ちなみに、先程ヨイヅキによって倒された巨大猪は収納魔術により、影の中に吸い込まれていった。
「そ、そんなに遠いの?」
「今日は、少し遠出をしたからな」
ほんの少しだけ歩くのが遅くなった。それでも、まだまだラヴァにとっては速い動きではあるようだが。
「なんでそんな──きゃっ」
「どうした?」
ヨイヅキがやっとラヴァの方を振り向いた。目の前には、泥に足を取られたのか尻餅をついたラヴァの姿があった。露出している足は、薄く赤くなっていた。捻ってしまったのだろう。これでは、歩くこともままならない。
「完全に捻ってるな。これじゃ、歩くのは無理か。俺も先を急ぎすぎた。すまない」
「別にいいをよ。私がドジを踏んだだけだし」
「ほら、乗れ。背負ってやる」
「いいの? 重いわよ」
そう言いながら、ヨイヅキの背中に掴まった。よろめきもせずに立ち上がって歩き始めた。その歩く速度は、ラヴァを気を使って歩いたいた速さよりも確かに速い。景色が目まぐるしく動いていく。泥や枯れ木を踏むこともなくザッザッ、と走っていく。
息切れすることもなく走っていく。ラヴァは、景色をヨイヅキの背中の上で眺めいていた。枯れ木だけではなく、冬だというのに
「重くない?」
「いい訓練になりそうだ」
「それって、重いってことだよね?」
「そんなことはないぞ。あぁ、ないぞ」
誤魔化すように呟いた。また少しだけ歩く速度が速くなる。木の幹の色合いが少しだけ変わっている。焦げ茶色だったのが、少しずつ黒みが強くなってきている。それ以外にも、少し遠くから小さく川の流れる音が聞こえる。
太陽が陰り、影が濃くなった。そして、気がつくと目の前には大きな洞窟があった。だが入り口から最奥が見えるほどの浅い洞窟である。到底、人が住めるような空間ではない。
どちらかというと、大穴と例えた方が良いかも知れないほどだ。
「こんな狭いところに住んでいるの?」
「あぁ」
ゆっくりと大穴の中に入っていった。少し歩いただけで奥に着いた。入り口からは見えなかったが近づいて見てみると壁画が彫られているようだった。
「この壁画って……」
「遥か昔。三種族が共存していた頃の壁画だ。この一つが、大きな魔方陣にもなっている」
壁画の竜人にヨイヅキが触れた。その後、獣人、竜人、人間、竜人の順に触れていった。
すると不思議なことに、ヨイヅキの体が壁に沈み込んでいく。そのまま慣れたように壁に向かって歩いていった。
「凄い」
周りは洞窟なのだが、中は完全な家であった。それと、中々に広い。全ての家具を無くせば軽く運動が出来るぐらいには。
それに、沢山の魔導具が散乱していた。機織り機のような物、明るく光る鉱石など、どれもラヴァにとって見たことの無い魔導具であった。
「足を見せろ」
「う、うん」
椅子に降ろされて、言われるがままに足を見せた。かなり赤く腫れており痛々しい。それに、先程までは気が付かなかったが小さな傷があちこちにあった。
「このぐらいの腫れと傷なら大丈夫だな。少し待ってろ」
傷を見てから、どこかに立ち去っていった。ラヴァは辺りをもう一度、見回して見た。
かなり散らかっている。一応、道が出来ているので、そこを通れば大体の場所に行ける。だが、大量に床に置いてある道具を片付ければもう少し広くなるだろう。
コップを二つ持ってきて、器用にラヴァの所まで戻ってきた。中には暖かい濃い緑色の少し粘り気のある液体が入っていた。ヨイヅキのコップにも同じものが入っている。
「あの、これは?」
「疲労回復と自然治癒に特化した薬草を煮詰めた物だが?」
少し顔を引きつらせながら、ヨイヅキに聞いた。だが、早く飲まないのか? という顔をされながら返答が戻ってきた。
匂いは、当たり前だが草の匂いがした、それもかなり強烈に。完全に苦味しかないような気がする。
とりあえず勇気を出して飲んでみることにした。一口で全て飲み干す。かなり口全体に苦みが広がった。だが、少しだけ体の疲れが取れてきた用にも感じる。
「苦がっ」
「そうか? まぁ、少し休んでおけ。夕飯、作ってくるから」
机にもたれ掛かりながらラヴァは少しの間、眠ることにした。疲れていたからか、急に眠けが襲ってきた。