1108 とある研究員の発明
ここはとある研究所ーー。
今日も様々な研究員達が燃える想いを胸に秘めて開発に励んでいた。
そしてその所長室に男がふたり。所長とある研究員であった。
「所長! これまでにないエアバッグを開発しました!」
「何だと? 早速見せてみたまえ」
「はい!おっぱい型エアバッグです!」
「おっぱい型エアバッグだと!?」
「そうです! デザインも素晴らしいでしょう!」
「何故この形にしたのかね?」
「まず安全性を高める為に、数を増やす事を考えました。そうして検査をしていくうちに、横に均等に並べると収まりが良いという事に至りました」
「成程。機能美というわけか。しかし何所と無く母性を感じるな……」
「そう、母性です! 従来のエアバッグよりも母性あふれるデザインになった事でユーザーは安心し、衝突による精神的ショックを和らげる事が出来る事に気づきました!」
「素晴らしい発見だ!」
「これだけではありません。エアバッグを時速100kmの速度で飛び出させる事に成功しました! これで感触もおっぱいに近づける事に成功したのです!」
「君は天才かね!」
「更に素材にシリコンをコーティングすることにより、接触をなめらかにしました! まるでリアルなおっぱいに包まれている様な感覚になるでしょう!」
「別の意味で天にのぼってしまうな!」
「そしてエアバッグに着せるカバーも開発しました。ブラジャーなどの下着からシャツなど様々なアイテムから選び放題です! 勿論組み合わせも自由! こちらは世界でも我が研究所が初めてです!」
「別の需要を呼び込むわけか。……凄まじい目のつけどころだ」
研究員の言葉に所長は震えた。
これは世界に名を残す発明になるかもしれない。そう、予感させるには充分な逸品であった。
「所長、どうか生産の許可を!」
「すまないが、少し考えさせてくれ……」
研究員の言葉に背を向けて、所長は悩んだ。
時計の秒針がかちかちと音を立てる。研究員は思わずごくりと唾を飲んだ。
そうしてたっぷりと時間をかけた後、所長は迷いを振り切る様にごほん、と咳払いをすると研究員に向き直った。
「良し、採用だ!我が研究所の発明として世界に売り出そうではないか!」
こうして研究所はスポンサーとメーカーの協力の元、世界初となる着せ替えおっぱいエアバッグを誕生させた。
おっぱいエアバッグが発売された当初は好事家達が購入するだけであった。
しかし次第にエアバッグの性能がとても良い事と機能美が評判を呼び、売上も好調に推移していった。
しかし、終わりは唐突にやって来た。
おっぱいエアバッグが発売してからというもの、一気に自動車の衝突事故が相次いで発生してしまったのである。
最悪な事に衝突した車には全て、おっぱいエアバッグがついていたのである。
これには研究所の面々もショックを隠せなかった。
おっぱい見たさにわざと衝突事故を起こす人が増えるとは予想もしなかったのである。
「私はなんというもの生み出してしまったのだ! まさしく人類を滅ぼしかねない悪魔の発明だった……」
そう、項垂れる研究員に、誰も声をかけられなかった。誰が彼を責められようか。
時を得ずしておっぱいエアバッグは発売禁止となった。
おっぱいエアバッグは決して悪ではない。
悪いのは文明を悪用しようとする我々人類の弱い心なのである……。
いいおっぱいの日に捧ぐ。