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『Cross-spirit.』  作者: 冬真
2/2

『スペルバ』

「彼がいるから大丈夫なんだよ、」


這い出す蠍の尾。現れたのは、巨大な蠍であった。

スペルバの持つ圧倒的な力を前にレンは…。


奏者レンとスペルバキエナの物語。

運命の出会い。








  ずぐぁぁ――――ん・・・・


「なんだ?! 」

 地震か、と身構える。

「心配ないよ、ゲリラだ。」

「はいっ? 」


スタッフが腰をかがめて言う。先ほどお世話になった、フォードさんだ。


「あの、ゲリラって大丈夫な範囲ですか? 」


ぽかーんとするレンの横で、アスミはまた汗を拭っている。

気に弱い彼の顔色は、すでに血の気が引いて紙のように白い。

ちょっと可哀想なくらいだ。


「ここら辺は、紛争地帯だからね。政府の物資輸送中にゲリラが襲ってくるのはよくあることだよ。」

「え、襲われてるんですか俺たち!! 」


たしかに地鳴りは続いているし、前方、砂丘の下方200メートルくらいで粉塵が上がっている。

が、襲われているのだとすれば遠すぎる。


「アレ、見えるかい。彼がいるから心配ないんだよ」

「あれ・・・? 」


強い陽の光を浴びて巨体の影が濃く浮かび上がる。


鋼鉄よりもさらに強靭な鋏。装甲車をまるで薄い紙のように容易く切り裂く。


「さ、サソリっ」

「スコルピオーネ、・・・あれがバクシンだよ。」


誰かが言う。

だが、レンの耳には届かない。固唾を飲んで、目の前の出来事を見守るしかない。砂漠の暑い風が頬を撫でた。



火の玉が雨のように降り注ぐ。銃弾の集中砲火。

しかし、サソリの甲殻は、それを物ともしない。

漆黒に輝くサソリ。


鞭のようにしなる尾が振り下ろされる。


「圧倒的、ですね。」

「あれが我々のボディーガード、――スペルバのキエナと、バクシンだよ。」

「へぇ・・・ってことは、俺の担当か」

「くじけたかい? 」

「まさか、」



 だって、まだ会ってもいない。





キエナのお陰ですぐにゲリラは壊滅した。

のは、いいのだが・・・。



一仕事終えたキエナがキャラバンに戻ってきたのは、数分後。


頭からすっぽり日除けのフードを被っているせいで、その顔は伺えない。


細い顎のライン、覗く口元は整っている。

若い。

キエナの纏う空気からレンは、直感的にそう感じた。


「あれが、・・・」


俺のスペルバ。

割と近くにいたらしい。しっかりした足取りで近づいてくる。


「お帰りキエナ! 」

「さすがだなぁ」


出迎えのスタッフたちが口々に労いの言葉をかける中、無言のアスミがレンの脇を通り抜けた。


神経質そうな眉が跳ね上がる。


「いったいどういうつもりだ・・・」

「え、」

(アスミさん? )

「キエナ! 」


呟いたかと思えば、声を張り上げて憤然とキエナの前に立つ。


「・・・・」


無言のキエナ。

呆気にとられてスタッフたちも一歩退いてしまう。


「どういうつもりなんだ! こんなことしてっ」

「・・・なに? 」

「やりすぎだキエナ、見なさいあれを・・・!! 」


指差すのは、戦場。

いや、もうもうたる黒炎に包まれた地獄絵図だ。


「前にも言っただろう、もう忘れたの? 君のやり方は、ひどすぎる。もっと敵が近かったらどうする! 味方にも被害が出るだろ!! 」

「あぁ」

「そうですか」とでも言いたげに、生意気に顎を反らすキエナ。そのまま、さっさと歩きだしてしまう。

アスミの横をすり抜けていく。


「待ちなさい! キエナ、・・・ここまでしなくても追い払うだけで良かったはずだよ。分かってるね」


たしかにアスミの言う通りだ。

だが、アスミはバクシンの悪魔のような破壊力を嫌っている。


憎しみにも似た怒りの眼差し。

肩を掴もうと延ばした手を、振り払う。


「うるさい! 」

「・・・!! 」

振り返ったキエナは、牙をむく。


「俺の仕事は、ゲリラの掃討だったはず。違うかアスミ? 」

「・・・そう、だ」

「ならこれで終わりだ。」

 ふんっと鼻を鳴らす。

「キエナっ」


 

(うぁっこっち来んじゃん! )

アスミをかわしたキエナ。レンの真正面に向かってくる。


「・・・・あ、」


「あの~。」とか、呑気に声をかけられる雰囲気でもない。

完全に空気が悪い。

アスミから紹介してほしかったが、今「新しい奏者です」なんて言ったらキエナに噛みつかれそうだ。


「待ちなさいキエナ、まだ話は終わってないよ」

「文句があるなら自分で止めてみろ! あんた奏者だろ、」


決定的だ。

二人の間の不信感は、レンにも痛いほど伝わってきた。


(うっ、仲悪すぎだろぉ・・・)


無言で苦虫を噛み潰すしかないアスミ。キエナは、もう彼を振りかえらない。


その足がピタッと止まる。

何のことはない。レンが進行方向に立っていただけ。

ちらっと見上げてくる赤い瞳。視線が合った。


フードの造る影の中でも分かる、闇をも焼き尽くす鮮烈な赤――。


「・・・・? 」

「あ、お疲れ様、キエナ。俺は、レン・クライミースト。アスミさんから聞いてるかな。新任の奏者だ。」


よろしく、と言おうとするレンを遮ってキエナが言う。


「アスミ、辞めるの? 」

「えっと」

「ふぅん」と呟くキエナの表情は、相変わらず伺えない。


「キエナ、」

「俺に奏者は必要ない。あんたもアスミと一緒に帰れ。」

「は・・・? 」


淡々と言いたいことだけ言うとキエナは、レンの横をすり抜ける。


「・・・え・・ファーストコンタクト、失敗? 」


少年の背を見つめて、蒼天に溜息をつく。


「レンくん、」


ドンマイ、とスタッフたちが生温かい視線を送ってくれる。



「俺、なんか怒らせるようなことしましたかね、」

「いや、タイミングが、ね? 」

(だよなー・・・。)

アスミもいつの間にかどこかへ行ってしまった。


「あの二人っていつも、あんな感じなんですか? 」

「う~ん、」


フォードさんの後ろから、キツネ顔のスタッフが気の毒そうに教えてくれる。


「そうだよ。二人は、なんていうか合わないんだよね、ソリが。どっちが悪いってわけでもないんだよなぁ。」

「なんなんですか、それ・・・」



 とんでもないところに来てしまったようだ。



to be continued...?

やっと出会う(笑)

二人の物語の始まりですね。

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