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らぶそんぐ

作者: aik

僕には空白の二年間がある。大学卒業してからの二年間、僕は一切他人との接点を絶っていた。その時、何をしていたのかと問われると僕はまぁ、察してくださいよと苦笑いする。今は音楽で飯を食っているのだがそんな奴の空白の二年間なんて大衆はある程度想像できるものだ。だから僕は何も言わない。しかし、多分どれも正解ではないのだろうと思う。僕はこの2年の間、「自殺プランナー」をしていた。自殺プランナーとは集団自殺の手助けをする者のことだ。自殺している最中、邪魔が入らないように見届けたり自殺する道具を準備をしてあげたりする。僕は偶然その募集サイトを見つけ自殺プランナーとなった。それから一切他人との関わりを絶ち多くの人の死を看取った。自ら命を絶つ者のエネルギーは本当に凄いもので、これから死ぬというのに目だけはギラギラと輝いている。そういったこの世界への執念は僕に心を躍らせていた。そんな目を彼女にもして欲しいと思ったからだ。

僕には自殺して欲しい人がいた。殺したい相手ではなかった。自ら絶望の中命を絶って欲しいのだ。出来れば、首を吊って尿を垂れ流して死んで欲しいと思う。なぜ、そんな感情を彼女に抱くのか僕には分からなかった。

彼女は僕の所属するバンドのギタリストだ。小さい頃から一緒にいる幼馴染であり自分が音楽を作る上で必要不可欠な相手だ。

そんな彼女は僕に明確な殺意を持っていた。

それと同時な強かな愛情をも兼ね揃えていた。

僕には才能があった。

彼女には才能がなかった。

ただそれだけが、僕らの関係を歪めることになった。

僕の作った歌が売れ、彼女の作った歌は一向に売れずそれから僕らのバンドは僕の作る歌しか奏でなくなった。

創作者には絶望的な状況だ。歌を作れないなら死んだほうが良い。そんな顔を彼女はよくした。そこで僕は姿を消した。現役大学生の組んだ人気絶頂のバンドはボーカルの失踪により活動休止に追い込まれた。

しかし、僕には関係なかった。彼女の絶望をもっと深くしなければと思ったからでもあるし、自殺についてもっと詳しくなる必要があったからだ。

どうやったら僕の眼の前で彼女は死んでくれるのだろう。二年間、そればかりを考えていた。

きっと、今頃前向きな彼女は1人で歌うチャンスだと感じているだろう。しかし、可哀想なことに彼女の作る歌は売れることはないのだ。ボーカルの腰巾着だと掲示板に書き込まれ、音楽とは何かと分かってない他人とは違う崇高なアテクシ的な薄っぺらい少数のファンに良い曲と褒め称えられるのだ。

それでも足掻いて笑顔を絶やさずギターを弾いている彼女の元に僕は帰ってくる。

超えられることのない大きな壁が彼女の元にまた現れたのだ。


その時の彼女の顔ときたら!


僕は空白の二年を経て、またバンドを結成した。その時作った曲は彼女がソロで作った曲の数千倍は金になった。

彼女の作る歌は悪くないのだ。

ただ、僕が隣にいなければの話なだけ。

その後僕らはアルバムを作り、ツアーを回った。

そして今日そのツアーが終わった。

打ち上げが終わり、余韻に浸るメンバーをよそに疲れたから先に帰るねと彼女はいった。

残りのメンバーと僕は二次会三次会と宴を明るくなるまで楽しんでいた。


そして翌日、二日酔いで重たい頭を抱えながら僕がホテルの彼女の部屋を訪ねると彼女は死んでいた。

自室でドアノブに紐を引っ掛けて首を吊って死んでいた。

真っ白のバスローブが尿で汚れていた。眼は開いたまま、どこかを彷徨っていた。

机の上に置いてった遺書には歌詞のようなものだ書き残されていた。


いたいいたいこころがいたい

せかいはおおきなかべにはさまれて

じゆうなんてありはしないわ

でもそのかべにいぞんするのもわたし

ふじゆうがなくてはじゆうになれないのもわたし

あなたがいなければわたしはうたをうたえたの

あなたがいたからわたしはうたをうたえたの

すきできらいできらいですきで

かべをこえたらさよならのこえ

またね いとしいあなた

またね にくたらしいあなた


濡れてバリバリになった紙を僕は指でなぞった。筆圧が強く、ところどころに穴が空いていた。これを彼女はあのギラギラとした目で書いたのだろうか。この世界を呪いながら書いたのだろうか。


最後に残したのはラブソング。


あぁ、そんなんだから

君は売れないんだよ。

自殺プランナーという言葉をインターネット上で発見して連想ゲームをしました

楽しかったです


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