山と湖の妖精たちと天の使いへの祈り
追憶の秋三編目です。
教会に伝わる一つの天の使いについての伝承。
『雲がかすむ山の頂に、天の使いが住まう古き遺跡があるという。
人の身でそこに向かうには、森の湖にて踊り歌う妖精たちの助力が必要だという。
心が清らかで澄んでいる者に妖精たちは手を貸すという。』
一人の旅人が天の使いに会うために、妖精たちに会うために、教会の隣に広がる森へと入って行った。
森の奥にある湖にたどり着いた旅人は、ラッパの音と楽しげな声とに導かれ、妖精たちとの出会いを果たす。
「旅人さん、旅人さん。
あなたは清らかな目をしているね。澄んだ目をしているね」
妖精の一人が歌うように旅人に話しかけた。
「あの山の頂にある遺跡へ行きたいんだろう?
それなら、この仔の背中に乗るといいよ」
「でも、優しく優しく扱って。じゃないと地面に落ちちゃうよ」
他の妖精たちが歌うように連れて来たのは、一匹の白い仔馬。
「旅人さんが天の使いに会えるかどうか、ボクらは歌いながら踊りながら祈っているよ」
「あなたはきっと出会えるよ。清らかな目をしてるから」
「あなたはきっと出会えるよ。澄んだ目をしてるから」
妖精たちは歌いながら旅人にそう告げると、再びラッパを吹き鳴らして、踊り始めた。
旅人は妖精たちの言葉通り、白い仔馬の背に優しく乗ると、白い仔馬はその背中から大きな翼を生やした。
白い仔馬は「ヒヒン」と一声鳴くと、天の使いが住まう山の頂に向けて駆け出した。
白い仔馬の背中に乗って、吹きすさぶ突風にも堪えて。
ついにたどり着いたのは、天の使いが住まうという山の頂にある古い遺跡。
旅人が遺跡の中を歩いていると、神秘的な光の中で白い百合の花を愛でている天の使いと出会った。
「こんなところに人が来るとは珍しい。よくぞここまで来ましたね。
その報いとして、あなたの祈りを神が望まれるものであるなら、神に届けてあげましょう。
さぁ、あなたの祈りを聞かせてください」
旅人は祈った。旅をするなかで目にした自然の花々の美しさを。
それを感じることができる心を与えてくださったことを。
澄んだ水が渇いた喉を潤してくれるうれしさを。
太陽と雨の恵みを。月や星の優しい明るさの慰めを。
「欲の無い今ある物で満足し、与えられた恵みに感動しているあなたの祈り、必ず神に届けましょう」
天の使いは旅人の祈りを聞き終えると、全身を金色の光に身を包んで、太陽のような輝きを放って、天上へと飛んで行った。
そして旅人は、山の頂の遺跡から新しい旅に出ていった――。
《終》
元ネタは、ジグソーパズルの作品を三つほど組み合わせたものです。




