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復讐の報い

歪んだ真珠を投影して、罪の願望を吐き出しました。

主よ、あたしは罪を犯しました。

あたしは、この手を復讐のために用いました。

心の底から愛していた男性(ひと)がいました。

彼と初めてあった時、彼の助けになりたいと思ったのです。

彼といるとあたしは心が安らぐのを感じたのです。

他の人では安らげませんでした。

他の人が安らいでいたとしても、私は緊張していたのです。

しかし、彼は違いました。

共に心が安らいでいるのを感じました。

幸せな一時でした。愛しい一時でした。

ですが、あたしの周囲は違いました。

周囲にとって彼は穢らわしい存在だったのです。

あたしと釣り合わないとまで言いました。

自分たちの方があたしに釣り合うとまで言いました。

あたしの心境を理解しようとしないのにです。

彼らといると緊張しかないのにです。

自分たちの正しさを押し付けられたあたしはうんざりしました。

あからさまに溜め息を吐いても、彼らは理解できていないようでした。

しばらく時が過ぎて、あたしはいつも通り彼と一緒にいました。

愛しい一時を楽しんでいました。

なのに、彼らはその一時に踏み込んで来たのです。

あたしの大事な一時を踏みにじる行為をしたのです。

そして、彼に対して罵詈雑言を吐きまくりました。

彼の人としての尊厳までも否定しました。

心優しい彼を言葉で傷つけたのです。

何度も何度も。獲物を執拗に狩るように。

自分たちに正義があるという態度で。

彼を苦しめたのです。心が病むまでに。

あたしにはその行為が許せませんでした。

彼らの行為には正義なんて欠片もなかったのです。

身勝手な彼らのせいで、あたしの愛しい彼の心は病に冒されました。

どんなに手を尽くしても、彼は立ち直れませんでした。

そして、彼は自殺を図ったのです。

あたしはとっさに気づいて、未遂にさせました。

彼を喪いたくなかったのです。永遠に。

だからこそ、あたしは彼らに復讐することにしました。

彼をその生命を喪わせるほどまでに追い詰めた彼らを、許すことなどできなかったのです。

あたしは彼らに冤罪を着せることにしました。

誰からも否定できない罪を着せることによって、彼らの正義を砕こうとしました。

罠を仕込んで、彼らが放火したように仕向けました。

幸い、彼らの行為に迷惑していた人々がいたので、あたしはその人々を利用しました。

放火の疑いを彼らに仕向けました。波紋が広がるように。

今までの鬱憤を晴らすように、疑いの波紋は瞬く間に広がりました。

彼らは弁明しようとしましたが、思い通りにはいきませんでした。

今までの報いが跳ね返って来たからです。

あたしに助けを求めて来ましたが、あたしは彼らを助けませんでした。

彼らは非難の言葉を投げ掛けて来ましたが、あたしは無視しました。

そのことに後悔はしていません。

ほどなくして、彼らは冤罪を着せられ、刑罰が下されました。

今までの報いが明確な形となって表れたからです。

しかし、復讐を果たしたあたしにも、冤罪の報いが生じました。

他ならぬ愛しい彼が自殺を遂げたからです。

そのことを知った時、あたしは後悔しました。

彼らへの復讐よりも、彼のそばに居ていたら。

隠した罪を犯さなかったなら。

彼は自殺を遂げなかったでしょう。

あたしが未遂に終わらせたでしょう。

その時になって、あたしは自らの選択が過ちであったことを悟りました。

過ちがもたらす罪を抱いて生きていけるほど、あたしは強くありません。

何よりも、彼のいない人生に意味を見出だすことすら、あたしにはできなくなりました。

主よ、あたしがあなたに告白したのは、あたし自身の気持ちの整理です。

あなたにあたしが犯した罪を告白することで、この世に対する未練を断ちたかったのです。

主よ、ありがとうございました。

あなたに告白することで、死に対する決意を強められたのですから。

あたしには聞こえるのです。死へと誘う魔笛の音色が。

忌まわしき生から引き離す、救いの音色が。

あたしにとっての救済は、その音色に連なることなのですからーー。


《終》

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