災厄のパンドラの覆いと熟達した職人の喪失
身近で起こりかねないことを妄想(現実にありそうであり得ないこと)して書きました。
狂った詩人の遺作
『災厄のパンドラの覆いと熟達した職人の喪失』
熟達した職人が去りゆくとき
災いの覆いは外されるだろう
潤落の時は過ぎ去られた
萌芽された災厄は摘み取られない
怠惰、怠惰の水に満たされた器
それしか、職人の家にはなくなった
災いの名はパンドラ
覆いとなっていたのは熟達した職人
未熟な果実のままでいた者たちの悲鳴があがる
嘆きの叫びが吠えあがる
されど、去りゆく熟達した職人の耳には入らない
未熟なままでいた者たちという果実に
苦汁が注がれる
怠惰の時の罪という苦汁の水が
熟達した職人は、流れ着いた場所で
さらなる熟達へと精錬されるだろう
熟達の渇望が与えた知恵を
新旧様々なやり方を
駆使して学んでいくことを
呼吸するように知っているから
王よ、司よ、総督よ
先人たちの知恵をなぜ退けた
適用への反発が招いた敗を
熟達した職人へと拭わせようとしたのか
先見の知恵を有すると謳いながら
それに反発した報いを
熟達した職人に刈り取らせるか
パンドラの目に叶われた者たちよ
災厄の矛先が向けるだろう
熟達した職人は糾弾の火矢を放った
怒りの火矢を放ったのだ
避けられぬ的へと深々に
抉るように残酷に
生け贄にすでに捧げられたものを
さらに生け贄にしようとするならば
生け贄を受ける悪魔は憤怒を示す
死した贄を寄越した者、と悪魔の大義を振りかざして
未熟な果実のままでいた怠惰な職人たちは
不満の棘を突き刺すだろう
サボテンの棘のように痛みを覚えさせるが
言葉を弄して逃れようとする
不満の棘を糾弾の火矢に変える術を持たないゆえに
弄された言葉を騙られて、時流れに流そうとする
解決策は地平線へと逃げ去られていることを認めない
災禍の獣が猛威を振るう
死が抗えざる王として支配したように
災禍の獣が猛威を振るう
解決策の綱を爪牙にて断ち切るように
災禍の獣が猛威を振るう
未熟な職人たちの思いを蹂躙するように
災禍の獣が猛威を振るう
予期されたことへの退きを退けるように
災禍の獣が猛威を振るう
自身を討ち滅ぼす存在がいないことを喜ぶように
災禍の獣が猛威を振るう
自身の確約された勝利に酔いしれるかのように
怠惰な職人たちは恥辱に麻痺するだろう
恥なることを誉れの冠としながら
怠惰な職人たちは腕を絡ませるだろう
熟達することを恥であるように思うゆえに
怠惰な職人たちは思いの悪酒に呑まれるだろう
心に染み込んだ思いは拭い難いことを知らないままでいるゆえに
災いの覆いが外された
怠惰の報いが暴かれた
災厄の嘲笑が響き渡る
猛獣の咆哮が支配する
災厄の猛獣を討ち滅ぼす勇者はいない
災厄の猛獣を討ち滅ぼす聖剣もいない
苦難が津波のように降りかかる
苦難が洪水へと悪化させて臨ませる
嗚呼、彼らが職人の腕を磨き抜いていたならば
嗚呼、彼らが真実を見極めていたならば
嗚呼、彼らが未熟から脱する決意をしていたならば
嗚呼、彼らが熟達した職人へと至っていたならば
災厄の猛獣の嘲笑を聖剣を持って退かせ
勤勉の意志が誇りの兜となり
王と司と総督たちの誤りを
真実の投槍が貫いたものを
その光輝に満ちる未来を彼らは捨て去ったのだ
しょせんこれは、仮初めの未来の戯言に過ぎない
されど努々忘れてはならない
最悪なる現実へと呼吸するように
容易に反転する紙一重であることを――
《終》
妄想が妄想でなくなったら、何になりますかね?




