狂いし勇者と戦乙女
没ネタや未使用や使用したオリジナルのキーワードを使って書きました。
若き勇者アルオーンは聖剣を手にして立ち向かうだろう
色欲に突き動かされるままに娘たちを拐い喰らった魔王アスモゴゥールを
罪渦の杭を穿たれながらも救世を阻む邪竜ディアニールを
完全なる解放を果たし強大な力を振るい暴れる魔王アラスゼンを
森羅万象に滅びをもたらす滅びの魔神ジェノダークを
滅亡の暗躍者であり最古の邪悪の使徒ニャルラトホテプを
されど、邪悪の存在を切り裂き滅びをもたらしてきた聖剣は
邪悪の存在たちの黒血を浴びてきた勇者アルオーンは
狂気に精神が蝕われてしまうだろう
救済のために必要なことだったのか
置き土産のように最後の悪あがきである
邪悪の存在たちの黒血を浴びることが
勇者だったアルオーンは再び聖剣を手にする
邪悪の存在が現れたからか
確かに現れただろう
聖剣を手にした邪悪の存在が
そう、勇者だったアルオーンは
精神を蝕み続ける狂気に敗北して
邪悪の存在へと、成り果てた
世界にとって何が正しかったのか
彼が邪悪の存在になることは避けられなかったのか
狂気に精神を蝕まれた彼を救えなかったのか
誰にも分からない正しかったこと
それは、悲しみのトリスタンで
彼の精神を死と引き換えにして
救済することだった
そうすれば、嗚呼、そうすれば!
勇者アルオーンは救済の勇者として
天上の戦士エリンヘリヤルという報いを受けたであろうに
救いの可能性を退けられた救済の勇者アルオーンは
狂滅の墮勇アルオーンへと堕ち変わった
堕とされた聖剣は邪剣と成り果て
万物に滅びをもたらす凶器へと変わった
奪い去られた平安は悲鳴満ちる暗黒に
安らぎの時代に栄華を極めた国々は絶望が蔓延る腐敗に
活気ある者たちは無気力になり
勇ましき者たちは口無し死体になり
狂滅の堕勇アルオーンに立ち向かう者は滅ぼされてしまった
強者無き暗黒の虚無の日々を強いられた人々は望むだろう
新たなる勇者の到来を
救済の再来を
そして、人々の祈り満ちし時
人々の願いは果たされる
天上より舞い降りた戦乙女イゾルデによって
暗黒の虚無の日々は終わりの産声を響かせる
戦乙女イゾルデの振るう聖剣は
狂滅の堕勇アルオーンを救うための剣
その聖剣である悲しみのトリスタンの刃が
狂滅の堕勇アルオーンを貫くことによって
世界を覆っていた暗黒の虚無は
ボロノーグの白き陽光が払い去った
そして、世界は救済を迎え
平穏な日々が到来する
邪悪な者が過ぎ去った世界は
永き平和に喜びの悲鳴を轟かせる
邪悪を払いし新たなる勇者イゾルデは
紺碧の海を見渡せる丘に、一つの墓標を立てた
それは、狂滅の堕勇アルオーンと至る前の
救済の勇者アルオーンのための簡素な墓標
憎まれるべき支配を行なった者にはふさわしくないが
救済を成した勇者への情けとして、自身が屠った死者への手向けとして
彼女は墓標を立てた
かつて勇者になる前のアルオーンに
恋慕の情を抱いた少女のために
墓標を立て終えた戦乙女イゾルデは
背中に生えている白鳥の翼を広げて
天上へと舞い上がっていった
救済の勇者アルオーンの魂を傍らに
天上の神殿へと連れて行くために――
《終》
アーサー王伝説の「トリスタンとイゾルデ」に北欧神話を一部組み合わせたのが元ネタです。