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BaD Carrier  作者: Shine
4/4

意思

 高速道路は大渋滞、首都まで最低でもあと4時間はかかるそうだ。俺は苛立ちを抑えながら、頭の中で状況を整理する。


 まず、俺の隣、助手席に座っている少年を首都に送り届けたら、すぐさまヴァーツへ《大狼》の出現を報告する。そのあとはどうであれ、まず大衆に知らしめることが先決であろう。


 端末は一応所持しているが、非人類除けのために展開されている不可視結界エリアが無線の妨害をしてしまうため、電波の弱い一般端末での通信は不可能となる。ヴァーツから届く首都外での任務の場合、不可視結界の妨害を受けない無線を配布、もしくは、一時的に一般端末の無線レベルを上げるなどの対処があるが、生憎今俺が遂行しているのは《クリーガー》としての仕事ではなく運送業だ。


 今すぐに走ってでも先を急ぎたい、道路の下方に歩道も存在するのだが、車を置いていくわけにもいかないだろう。


 少年も、少し居心地が悪そうだ。ここは会話でもして場を和ませよう。少しでも空気を軽くしなければ少年もそうだろうが俺が耐えられない。


「あー、その、なんだ、ちょっと時間かかるかもな」


「あ、そう、ですね・・・」


「もしかして、急いでたりするか?」


「いえ、急いではいないです」


「そう、か・・・それなら俺も気が楽だよ」


 大嘘である、ぜんぜん気分は晴れないし、まったくもって空気が軽くなった気もしない。


 それでも場をつなげようと、必死に会話の内容を考える。これ以上の沈黙は御免だ。


「あんた、クリーガーを志望してるのか?」


 少年の表情が少し動いた。


「わかりますか?」


「ああ、その年で首都に独り立ちする理由なんてそれくらいさ、そのバックパックにも武器が入ってるだろう?」


 少年は少し俯き、おもむろに口を開いた。


「やっぱり、”旧類オールド”がクリーガーなんて、おかしいでしょうか・・・」

「えっ」


 今、なんと言った?


 旧類、確かにそう言った。


 サングラスを外し、少年の容姿を再確認する。整った中性的な顔立ち、線の細い体、そして目を引いたのが。どちらかと言えば"黒"寄りの"青"髪。


 そう、俺はサングラスを通して景色を見ていたため、常に

視界が明るく、正確な色の判別をすることができなかった。彼の髪色を完全に青そのものだと勘違いをしていた。


「・・・」


 少年は戸惑っている。


 別に俺は、旧類を毛嫌いして差別するような人間ではない。問題なのは少年が旧類だということではない。旧類の少年が《クリーガー》を志望していることにある。


 通常、旧類は親類ニューと違い、特殊な能力を持たずして生まれる。親類の中には、その優越感に浸り旧類を差別するような人間も存在する。クリーガーは非人類を相手取るため、能力を持たない旧類はおらず、能力を持った親類が多く志願する。しかし、この少年はどうだろうか。勇敢なのか無謀なのか、はたまたただの馬鹿か、旧類が《クリーガー》を志望するのは、後にも先にも前代未聞と言っていいだろう。


 ますます彼の未来が心配になる。


「えー・・・そのー・・・」


 うまい言葉が見つからない。その勇気を賞賛するべきか、彼の未来のため忠告し、止めるべきか。天秤が不規則に動く。そもそも俺は少年の実力を知らない。助言など、実力を見ていない俺などがして良いのだろうか。


「やっぱり変、ですよね・・・」


「あ、いやそんなわけじゃ・・・」


 少年から口が開かれる。


「でも、僕は、必ず、必ず人を守る、クリーガーになりたいんです」


 強い決意を感じる一言、さらに少年は続けた。


「富とか、栄誉とかそんなのじゃなくって、人を守れる強い人間になりたいんです」


「・・・お前・・・」


 少年の言葉に、嘘偽りは無かった。それが少年の本音だと、俺の中では確信できた。


「君は・・・」

 口を開こうとした瞬間。



 強い振動とともに、轟音が背後から聞こえた。


 背後を確認しようとした矢先に、フロントガラスから異様な光景を目の当たりにする。


 ぐしゃぐしゃにひしゃげた、車であったものだろう鉄の塊が、黒塗りのトラックの頭上を通過し、列を組んだ車達の中心に落下する。


「・・・は?」


 状況の理解ができなかった。


 続いて、下から何かが登って来るような音が連続して響く。バックミラーから背後の確認を試みるが、一瞬にして飛んできた小石がバックミラーを破壊する。


 轟音が響き渡り、再度、地が大きく揺れた。


 車窓を開き、背後を確認する、何かが落ちた跡のような、深いヒビが円状に広がっている。


 トラックの正面から、破壊音が飛んでくる。


 音に惑わされ、まるで操り人形のように再度正面を向く。


 前列の車はほとんどが破壊され、人々が慌てながら下車しているのが見える。


 そして、全ての元凶を目撃した時、俺は目を見開いた。


 全身から冷たい汗が噴き出し、焦燥感に駆られる。


 しかし、体はすぐには動かなかった。


―――――――――――――――――――――――――――――


 私をあの日を知っている。


 すべてが終わり、すべてが始まった日。


 いつもと変わらない日常に襲い掛かった悲劇。


 夕焼けに染まった赤い空が。


 堕ちてきたのだ。


 真っ赤な空が。


 ある人は絶望し。


 ある人は運命を受け入れ。


 ある人は立ち向かった。


 あの日から、私は決意したのだ。



 二度と同じことは、繰り返させないと。そう、必ず、固く誓ったのだ。

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