第七話 【馬鹿】は気配に怯える
と、まぁ……。
帰宅するために、踵を返したわけ。
そしたらさ。
『実は真後ろに片手で拳作ってそれをもう片方の手で握りしめる、青筋おったてた笑顔な侍女が居た』
なんて、誰が思う……?
俺。
ちゃんと巻いたぜ……?
ついでに、俺が【俺】の時に作った隠し通路使って出て来たからな?
入り口も出口も、俺しか通れないよう。
ちゃんと設定して、封鎖してきたんだ。
だから、な。
何が言いたいかってったら。
『なぜここに?』
だな……。
ついでに最近。
なんか、若干なんだが。
コイツから懐かしい……嫌な気配を感じるんだ……。
そう。
これは……【俺】の側近だった二人。
いや。
【俺】は四人。
いや、五人。
知ってる……。
今世では、できれば会いたくない。
やぁ……。
その、ソイツらが嫌いって訳じゃねぇんだ。
当たり前だろ。
嫁とそれの従兄弟と、嫁の親父とおふくろさん。
それに。
親友が嫌いな訳、ない、だろ……?
当たり前だろ?
なぁ。
当たり前だよなっ!
そうさ!
俺はアイツらが好きさ!
会いたいって思ってる!
だがな!
だがなっ!!
いいか。
大事なことだから、良く聞きやがれ。
俺は。
俺様は。
忙しいんだ!
だから奴らを探すなんて命知らずな事はしねぇんだ!!
もし。
何かの拍子に思い出されてみやがれ!
俺様の自由がなくなるだろッ!!
嫁は……まぁ、ともかく。
側近と親友、嫁の父と母の四人がそろいでもしたら…………。
俺のパラダイスが無くなるっ!
「姫様。わたくし、以前なんと言いましたか?」
「え、えっと……。勝手に外でちゃダメ……?」
てか。
俺はなんでお前がここに居るのかが知りてぇよ……。
なんて考えは毛ほども見せない美少女フェイス!
俺様はそれを駆使し、戸惑い気な顔で小首をかしげる!!
さ、どうだ?
この俺様の愛らしさと美しさに見いとれるが良い!
「……そうですよね。では、何故姫様はここにいらっしゃるのでしょうか? わたくしは『姫様が外出する』という連絡は受け取ておりませんのに……」
リーナスの笑みが、消えた……だと……?
そんな馬鹿なっ……!
俺様の美少女フェイスは完璧だ!!
なぁ。
そうだろ?
能面みたいなリーナス!!
「あはは! 怒られちゃえっ」
と。
俺の隣で右手を広げ、中指の先を唇に置き。
小首を傾げ、ほざいた変態野郎。
チッ。
中身、爺の人格破綻者めっ!
お前の顔より俺の方が数千倍可愛いっての!!
「兄さん……。今日はここに居たのね……」
突如クーの真後ろから聞こえた、低い声。
それは確認するまでもなく――
「あら、ベティ。どうしたの?」
「てっきり、ウェルお兄ちゃん達の所かと思っていたわ」
口元を笑みの形にしただけの、ベティ。
彼女はクーに声をかけた際。
奴の後ろエリを掴み。
あっという間に奴を透明の箱に押し込んだ。
押し込まれた変態はというと。
若干地面から浮き。
いつも通り飄々としている。
「探したのよ。あちこち、ね……。もちろん、この国も」
「あ。じゃぁ、気づいた?」
唇しか笑ってない上。
声が低いベティに対し、変態はにこっと楽しげに笑って言った。
まぁ。
これによってベティの唇からも笑みが消えたのは言うまでもないな。
馬鹿め……。
「えぇもちろん……。『国に帰ったら私の実験に付き合って下さる』という意思の現れなのよね。分かっておりますわ。ちょうど、死なないモルモットが欲しかったの」
ベティは満面の笑みを浮かべて言い。
奴と共に光の柱となって消えた。
「ハッ、馬鹿め!!」
しばらくベティのモルモットにでもなってろ!
けけけけっ!
「姫様……」
感情を抑えるような、恐ろしくひっくーい声音。
それはもちろん俺の真横から……。
……あ。
ヤベッ。
青筋浮かべた無表情侍女がまだ居たんだった……。