第五話 【馬鹿】と【王】
長くなっちゃいました……。
切るのもなぁ…って訳で、そのままです。
そして、初めの部分が足りないってことに気づいたので、今日(8/14)付け足しました。
すみませんでした。
いやぁ。
しっかし、若造どもを振り回してやるのは相変わらず楽しいなぁ……。
まぁ。
息子と孫、振り回すのが一番楽しかったんだけどさ!
「姫様。わたくし、心配で心配で……っ」
ぽろぽろと落ちた水が、地面に座り込んだ侍女のエプロンにシミを作った。
…………って、おいおい!
説教の次は泣くんかい!!
って。
え?
な、泣くほどの事か?!
なぁ、侍女さんよ!!
「もう、こんな心配、させないでくださいませっ……!」
そこまで言って、嗚咽を堪えられなくなったのか、震える手で青ざめた顔を覆った。
あー……わかった。
わぁったよ……。
俺が悪いんだな。
へいへい。
次は気ぃつけますぅ……。
…………はぁ。
俺、【涙】に弱いんだよなぁ……。
まぁ。
それは置いといて、慰めねぇとな。
「ごめんなさい、リーナス。なかないで。どうしても、きになってしまったの」
「ひめ、さま……。っ……いいえ、いいえ。姫様が謝罪することではありません。わたくしに全て非があったのです。姫様。三年という長い様で短い時間ではございましたが、お世話になりました……」
座り込んだまま、頭を深く深く、リーナスが頭を下げた。
そして口走った言葉がなんか、【辞職】って感じ……って。
え?!
ちょ、ちょっと待って!!
なんでやめようとしてんの?!
やめさせないよ?!
君みたいなちょろ――じゃなくて、すっごくちょろい人!!
めったに居ないんだからなっ?!
「り、リーナス、いなくなっちゃうの……?」
そう。
ここは捨てられた子犬のように!!
いかにも悲しげに!!
かつ、泣きかけのような顔でっ!!
さぁ。
その意思を捨てて落ちてこい……ふっふっふ……。
「っ……! 姫、さま…………。…………ご安心ください。リーナスは辞めません。少し、別の部署が忙しくなってしまったので、そちらの方へ―――」
にっこりと。
いつもの笑みを浮かべるリーナス。
だが――。
「嘘はダメだよ。リーナス」
「ッ?!」
「分かるんだから」
君は、この城を出て行く――いや、追い出されるんだろう?
「ひ、めさま……?」
少しだけ顔を上げたリーナスは、困惑気に言葉を発し、驚愕を示していた。
ぅおっとぉぉぉおっ!!
いっけねぇ!
つい素が出ちまったぁぁあああ!!
やばい!
やべえよっ!!
リーナスさんスッゲー不審な目を向けてんだけど?!
メッチャ疑ってんだけど?!
うあぁぁぁぁあああああ!
しくじったぁぁぁあ!!
「え、えぇっと! お、おとうさまのとこにいくってくるっ!」
脱兎のごとくリーナスの前を走り抜け、父上の居る場所目指し、駆けた。
その際。
リーナスはぽかんとしてルファネスを見送った。
―――――――――――
―――――――――
そして。
ここは王の執務室。
今の時間帯はここで仕事をしていることを経験上知っているので、迷わずここへ来た。
両脇に居る衛兵が不審げだが、気にしない。
軽くノックをして、高い位置にあるドアノブを回す。
この際、返事はなかったが気にしない。
あぁ。
気になんぞしてやるものか。
俺の行動を遮ろうとする者はたとえ親父であっても許さねぇ。
それを、親父が一番分かっていたはずなんだがなぁ……。
やっぱ、転生と同時にあちらに置いてきちまったか?
……まぁ、良い。
分からせるだけだ……。
「おとうさま」
「? ルフェミニアじゃないか。ダメだろう? ここに来ては」
「…………ひとばらいを」
「? 何を―――」
チッ。
察し悪ぃな……。
以前の親父殿なら、俺が来ただけで人払いを行うやつだったぞ。
と、まぁそんなわけで―――
「皆。出て行きなさい。俺は親父と話がある」
「「「?!」」」
はい。
やらかしましたっ!
くっそ!!
いくら苛立っていたって言ってもこれは酷いっ!!!!
だが。
やっちまったもんはしょうがねぇ!!
ふはははは!
「分からないのか? 俺は『出て行け』と言ったんだ」
チッ。
おどおどしてんじゃねぇよ!
テメェらそろいもそろって愚図なのか?
ああ?
それとも屑なのか?
そんなに俺を怒らせてぇのか?
俺の逆鱗に触れてぇのか?
「「「「ひっ……!」」」」
――――バササッ……
と、室内に居た四人全てが小さな悲鳴を上げ、そのうちの一人が書類を落とした。
チッ。
この程度でビビりやがって。
以前の親父の傍に居た奴らは何かと告げて、そそくさと部屋を出て行っていたというのに……。
察しの悪い奴ばっかりそろいやがって。
本当にこいつら、使えんのか?
「ここで見たものはすべて忘れろ。そして即刻出て行け」
出来るだけ苛立ちを抑え、そう告げると、困ったように親父を見。
頷いたのを確認後。
我先にと部屋を飛び出していった。
おかげで少し苛立ちが収まったので、親父に目を向ける。
そこには目を見開き、驚愕を示している王が居た。
ふぅ……。
めんどくせ。
ま。
ここまでやった(やっちまった)んだ。
今更猫かぶっても遅ぇな。
今後の事を考えて、地で行くか。
「さて、親父殿。俺がここに来た理由、分かってんだろうな?」
「……ルミア、なのかい?」
「はっ! それ以外に何に見えんだっての」
つうか、こんな可憐で可愛い。
一目見たら忘れられねぇほど美少女な俺に何てこと言いやがる!
親父はこんな美少女を毎日見てたじゃねぇか。
「…………そうか……」
「質問に答えろ」
「…………はぁ……。すまないね。私は何だなんだか、全く分からないよ」
「はぁ……。やっぱ、転生の時に察しの良さを置いて来ちまったんだな……」
「………………」
『転生』と言う単語に頭を悩ませる王。
それに対し、盛大にため息を吐く幼子。
「まぁ、良い。単刀直入に言う。俺付きの侍女を辞めさせんな」
「……確か、リーナス・ビュー。だったね」
「あぁ。あのちょろいのが居なくなると困んだよ」
「…………(ちょろいって……)」
「おい。聞いてんのか、親父?」
「………………あ、あぁもちろん。聞いているとも……」
可愛い娘に。
幼い娘が『おとうさま』ではなく、『親父』なんて……。
と、ショックを受けていたことをルファネスは知らない。
よって、その間がルファネスを苛立たせた。
「チッ。スペック落ちすぎだろ」
嘆かわしい……。
王が執務室でのみ、仕事を行うなど……。
民の声を直に聞き。
解決するために動くことが仕事だろうに……。
「私としては、幼い我が子がこれほど流暢に話を出来ることに対して驚きなのだが……」
「ハッ! 俺を幼子と侮るからだ。つーか、親父よぉ……。こんなとこで書類整理なんぞ、してていいのか?」
「……?」
「分かんねぇの? 『王は民のためにある。民は王のためにある』そう、俺は息子と世間に伝えたはずなんだな……」
「…………? 何を――」
「『王は自らの目で、耳、肌で感じ。民を想え。支え、慈しみ、愛せ』」
「? それは【馬術王】の――」
親父はそう、訝しげに顔をしかめた。
どうやら、俺の事を知っているらしい。
まぁ、当たり前か。
「あぁ。この国を治めた第十七代王。『ルファネス・グレイオ・エドレイ』の言葉だ」
「何故、そんなことを三歳児が知ってる……?」
スッと表情を引き締め、動揺を見せ無くなった親父。
その表情は遠い昔。
傍で良く見た、王の顔。
俺はそのことが嬉しくて、ふっと笑った。
「ああ、その顔だぜ。親父殿。あんたにはその顔が一番似合う」
「……私の娘に、取りついたあなたは――」
「待て待て! 取りついてない!!」
「………………」
「ヒント。『俺は今も昔も変わらずあんたの子だ』」
「………………」
「そして、もう一つ。『俺の叔父上は今も昔も変わらず破天荒で、常識が通じない』」
「…………っ?!」
俺の言葉に、親父殿は王の顔を崩し。
ギョッと目を見開いた。
「じゃぁな。リーナスを辞めさせることは許さない。もし、辞めさせたのであれば、俺は全身全霊をもってこの国に――いや、この王宮に混乱をくれてやろう」
にたりと親父殿に向け、笑い。
踵を返し、ゆっくりと。
上機嫌に歩いて、リーナスの居る部屋へと戻った。
するとそこには呆然としたのリーナスが居た。
「リーナス? どうしたの?」
すっげー顔色悪いんだけど……。
「ひ、ひめさま……さっき――先ほど、侍女長様が、『姫様のお傍に居て良い』と」
「本当!」
「え、えぇ。もちろんでございます!」
信じられないと、呆然としていた表情に喜びが浮かび、リーナスは満面の笑みを浮かべだ。
うむ。
やはり美人には笑みが似合うな!
ここまで喜んでくれるというのなら――――
「脅したかいがあった……」
「? 姫様? 何かおっしゃいましたか?」
「いいえ。なんでもないわ」
「左様でござますか」
「えぇ。ふふふ。これからも、よろしくね? リーナス」
「勿体のうございます」
ふふふ。
俺はこれから君にいっぱい迷惑をかけると思うけど、そこは許しておくれよ?
まぁ。
目下の目標である、王城脱走は後二年待ってやる。
泣いて感謝するがいい!!
はーっはっはっはっはっ!
――一方あちら。
「お母さん! どうしよう、髪の毛こげた!!」
「え? まぁ、大変! だから髪を結びなさいって言ったでしょ?」
「だってぇ……」
「ふふ。もう、しょうがない子ね」
と。
鍋を振るい食事を作りつつ。
長く濃い金髪がこげたと慌てる少女にニコラは微笑んでいた。